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罪火:大門剛明:ネタバレじゃないですから

「罪火」(50/2021年)

舞台化したいな、と思ったら2時間ドラマ化されていました。繊細な心理的駆け引きを描いている作品です。読みながら、各登場人物はどういう表情をしているのか、様々な解釈が出来る作品です。実際の行動と、自分の中の思いと、他人に見せるための感情がバラバラな感じが、この作品の緊張感の肝だと思いました。これを役者がどう演じるのか、見たいですね。

ステレオタイプな解釈も出来ますが、作者は、多分、それを望んでいないと思います。一旦、未来が見える結末を提示しているものの、その先の現実の厳しさもヒシヒシと伝わる感じ、鋭いです。

主人公の校長先生・理絵はボランティアで犯罪被害者と犯罪加害者が直接向き合う修復的司法というものに携わり、加害者の社会復帰のサポートを積極的にしている人です。

その主人公の娘が殺された、それも性的暴行ありで。

もう一人の主人公、若宮は少年時代に人を殺している。その後、鬱屈した日常の中で、ある日「ブチ切れ」て、社会復帰のサポート活動を通じて縁があった理絵の娘を殺してしまう。

え、これ、もうネタバレじゃない?と思うことでしょう。でも、安心してください。ちょっと違うんです。ここから物語がどう転がって、どうやって終わるのか、非常に不安定な、ソワソワした気持ちの読書が続きますから、思う存分楽しんでください。

加害者の支援をしていた人が、被害者になり、加害者にどう対峙していくのか、というテーマもあります。法的制裁とは別の、加害者の被害者に対する謝罪に意味はあるのか、というテーマもあります。罪を償うことは可能なのかという深い投げかけもあります。罪を一度でも犯したら、立ち直ることは出来ないのかという社会的な問題提示もあります。

複雑な気持ちになれる作品です。人はいつでも罪を犯してしまう状況にあること、ふと実感です。


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