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11枚のとらんぷ:泡坂妻夫:名作は時を越えるのだな

「11枚のとらんぷ」(38/2022年)

昭和51年、1976年の作品ですが全く古くない、凄い事だと思います。当時のノンビリとした雰囲気がいい味を出していますが、ミステリとしての骨の部分はしっかりしています、流石。敢えて、この当時を舞台にして、今、映像化とかしたら面白いかも。主演は綾瀬はるかあたりにしたいけど、高身長設定だから長澤まさみかな。妄想全開!

作者自身がマジシャンとしても有名だったようです。その泡坂がマジックをテーマにしたミステリを書くのだから面白い。作品の構造も変わっています。3部に分かれていて、1部が殺人が起こるまで。2部は、その殺人でモチーフにされた11篇のマジックミステリ作品が登場します。そして3部で解決するわけです。間に別作品を挟むなんて、最近話題の「ヨルガオ殺人事件」と同じ、凄い先取り(ってわけじゃないですがシンクロニシティを感じました)。

2部の短編集は、それぞれがマジックのネタ破り的な作品になっているところが面白い。でも、著者はプロのマジシャンですから、プロが困ってしまうようなネタバレじゃないところが実にスマート。昭和の上品なテイストを堪能することが出来ます。

ミステリ本筋ですが、とあるマジッククラブの公演の最中に殺人が発生します。公演が様々なトラブルを発生させつつ終了するのですが、そこで死体が発見されます。そして、解決は数か月経ってから実施された世界中のマジシャンが集まるイベントが東京で開催されるのですが、その華やかな雰囲気の中で徐々に事実が見えてきます。ここの描写は実にゴージャス、大阪万博の余韻と言うか、一気に世界に開かれた日本の素敵な時代を垣間見ることが出来ます。

良い作品は時代を越えるのですね。コミカルな雰囲気が映えるのも、筋がソリッドだからでしょう。これはおススメです。


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