恋と禁忌の述語論理:井上真偽:メフィスト度、濃厚、過剰。

「恋と禁忌の述語論理」(56/2022年)

これがデビュー作だったのですね、実にメフィスト。ここから。徐々にメフォスト度を薄くしていくって、テレビドラマ化に進むわけか、凄い。そんな離れ技が出来るのは、ミステリとしての純度が非常に高いからだと思います。そのコアな部分を、どうやって作品に拡張させていくのか、様々なアプローチで読者を楽しませてくれる。
もし、井上が所謂「社会派」に、それも重厚なやつにチャレンジしたら、どんな作品が飛び出てくるのか、恐ろしい~

「数理論理学」、私はそんな学問が存在することを知りませんでした。その学問を駆使して、スーパー天才叔母さん、硯さん(この人物のキャラ設定が超メフィスト的なのでお楽しみあれ!)が事件の真相を解いていきます。事件は3つの「殺し」です。事件なのか事故なのか、女子会での死、イタリアンレストランでの死、そして雪山別荘での死、3つの死。実は既に探偵たちによって一応の解決はもたらされているのだけど、それを数理論理学をもって覆し、真相を明らかにしていく。

数理論理学という武器を主人公に据えたこの物語は、読者にプレッシャーをかけてきます。かなり重いのですが、その重さが心地よいんですよね。理解しようと努力しても、普通は無理でしょ。上から、そして真正面から読者を追い詰めるんです。
もちろん、それだけじゃつまらないですよね、なんか怒られているだけみたいで。でも、本作はミステリの核が実にシンプルで美しい。その美しさを際立たせるために過剰なまでのデコラティブな理論武装、かなり面白いです。

好き嫌い、あるかもしれませんが、これは読んでおくべき「怪作」だと思います。

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