神の涙:馳星周:アイヌの熱き心をもっと知りたくなります

「神の涙」(6/2021年)

アイヌの話です、と簡単に言い切れないところが馳作品の深い所ですね。様々な要素が「ほどよく」絡み合い進んでいく物語です。

アイヌの木彫り作家、敬蔵を中心に、彼の孫娘と、彼に突如弟子入りを申し込んできた謎の男の3人で展開します。昔はひどい酒癖で、妹にも、妻にも捨てられた敬蔵。父母の突然の事故死で孫を引き取ることになり、少しは落ち着いたものの、アイヌとしての矜持ゆえにちょいちょいトラブルを起こします。娘はアイヌであることから脱出するためにもがいています。男は、東日本大震災の影響で命を落とした母のルーツ探しのために弟子入りをしたことが明らかになってきます。

そんな3人ですが、男の隠された過去が暴かれていく過程で、様々な変化が出てきます。どんな過去なのかは読んでのお楽しみなので書きませんが、馳の魅力を堪能できること間違いなしです。

大きなテーマとしてアイヌと和人の問題があります。アイヌに対して、和人、つまり日本人が何をしたのか、どういう弾圧を行って、それによって如何なる差別を生み出したのか、本作品の中で詳細に描かれているわけではありません。しかし、そういうことがあった事は事実です。この作品をきっかけにアイヌ問題について、もっと知りたい、知るべきだと思いました。

馳星周としてはマイルドでソフトな内容かと思いますが、敬蔵の気持ちの熱さは、他の作品のヒーローたちと変わりはありません。北海道の自然に関する描写に心燃えることも間違いありません。ミステリ、サスペンス、アクション要素もつまった本作品、オススメですよ。

最後に、羆、最強だね。



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