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水の中の犬:木内一裕:新ジャンルと呼ぼう

「水の中の犬」(74/2022年)

早い、早すぎる。理屈を超えて、とにかく事件が突き進む、容赦ない。本格的なハードボイルドではないと思う。往年の作品好きな人からすれば、物足りないというか、薄く思えるかもしれない。
でも、これは新ジャンル、そういう理性を吹っ飛ばして、何かがページを捲らせる。いつの間にか登場人物の心情に寄り添っている自分がいる。映像的とはチョット違う。なんだろう、この疾走感。

もと警察官の私立探偵の物語、3つの事件が登場します。どれも酷い事件ばかり。一つ目は不倫相手の男の弟にレイプされる話。二つ目はヤクで刑務所に入ってから出て来て、失踪する話。三つ目は誘拐とかしちゃう話。
とにかく簡単に人が死にます。死に至るまでの「溜め」が非常に薄いので、焦ってしまいます。人を殺す側の気持ちもとても軽い。いや、わざと軽く書いているのかもしれない、登場人物の思いを読者の解釈に通常よりも重く依存しているのかも。
作者は超有名な漫画家である。コミックの場合は「画」によって読者を思いっきり誘導することが可能だし、読者もそれを望んでいるのかもしれない、画力による支配を。それに反して、小説というアウトプットでは、真逆のことをして読者を翻弄しているのではないだろうか。

それにしても、一冊ほぼ全てが次回の前振りという贅沢な作りにはニヤリとしてしまった。

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