見出し画像

あなたには帰る家がある:山本文緒:ご冥福をお祈りします

「あなたには帰る家がある」(116/2021年)

もう新作は読めないのですね。まだまだ読んでいない作品がたくさんありますから。これから、ゆっくりと読みます。すい臓がん、辛かったのではないでしょうか。ご冥福をお祈りいたします。

1994年作品ですが、2018年にドラマ化されているんですね、それも2度目。物語の核の部分が強いから、時代を越えて、周辺部分の表現は変化していくにしても、これからもピックアップされていく作品なのでしょう。

ラストが痺れます。ここで「長男」がこんな形でクロースアップされるなんてサプライズ過ぎます。彼はこのシーンで、子供、つまりあくまでも成人によって保護される立場の生き物であることから卒業します。「社会」に一歩足を踏み入れた瞬間がそこにあります。

二組の夫婦、4人、それぞれが何となく満足してるけど、何かが足りない。そんな状況になってしまった原因は基本的には自分のせいなんだけど、それに納得しているわけではない。確かに隣の芝生は青い。でも、それだけでは済まされない何かがボンヤリとある。

そのボンヤリを描くのが上手い、さすが山本、本当に良い線を突いてくる。適度にエンタテインメントしているけど核がある。だから本作品も結構派手な展開だけど茶番にならない。そのまま不倫がメインとなってしまうドロドロ不倫ものにはならずに、不倫もファクターの一部に収まる、だから読む人によって様々な思いを持つことが出来る余地があり、楽しい読書になるのだろう。

で、やっぱ長男です。この長男の行く末を考えながら読書は終わります。なんと完璧な余韻でしょうか、素晴らしすぎます。山本文緒、今までありがとう。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?