ブルーローズは眠らない:市川憂人:ナイス本格!(少しネタバレあり)

「ブルーローズは眠らない」(039/2020年)

本格ミステリ、ですね。第二弾。1980年代設定が「本格」っぽくて良い。最新のテクノロジーはミステリのパズルを緻密にもするし、がさつにもする。例えば、ITの技術として、クラッキングでオンライン上の全ての情報は盗み出すことが可能となる。現実的ではないけど、携帯電話の通話も全て盗聴出来てしまう。そこの設定の幅は、パズルに緩みを生じさせる。

逆に江戸時代を舞台にすると、当時の社会のしくみや、科学的にどこまで可能なことだったのかとか、今ひとつハッキリしないことも出てくる。そこが読者の妄想をかきたて物語が弾むのだが、パズルとしては柔らかくなる。

本作、ブルーローズ(青い薔薇)という当時では不可能だったことが可能になったというフィクションの上に組み立てられたミステリ。1980年代に生きていた僕としては、当時の状況を前提として、パズルに挑めます。以下、ネタバレします。














最大のトリックは動機だと思います。なぜ、この殺人事件が起きたのか。これがポイント。アリバイトリックや密室トリックは、まあ、解けることは分かります。でも、読者は、それが解けることは分かるんだけど、解けたところで、で、どうして殺人しなくちゃいけないの?という最大の謎にぶち当たるのです。

かなり強引な動機なんですけど、そこは「本格」だからOKです。読者は、この動機を作り上げた作者の筆力に感動するのです。今の事件と昔の事件の連携プレイ。時間差攻撃と巧みなミスリード。もちろん読者もそれらの仕掛けを念頭に入れながら読むものの、なかなか真相にたどり着けない。いや、ナイス本格。

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