氷の仮面:塩田武士:理解する方向に進むこと

「氷の仮面」(125/2020年)

心は女性だけど、身体は男性の主人公、翔太郎(後に「蘭」に改名)の物語。LGBTの人たちを描いた様々な作品があるけれど、本作品のように幼少期から成人までを成長の過程を、ある程度の客観的な視線も交えて描いたものは初めてでした。

言い方はおかしいけど「勉強」になりました。こういう心の動きをするのかということを知りました。もちろん、これが全てでは無いだろうし、このケースは非常に恵まれていることも理解しています。だけど、本作のように、成功したパターンの物語の方が理解は深まりました。

本当はもっと過酷で、哀しい世界なのかもしれません。でも、そういう話ばかりだと、残酷な面ばかりにスポットライトが当たってしまい、その流れに引きずられてしまいます。個人的な読書観だと、負の方にギュイっと持って行かれる方が好みなのですが、そればかりだと本質を見失うこともあるかもしれません。

主人公の周りは、とても理解のある人たちが集まってきます。現実には、こんなに都合の良いことはないかもしれません。ただ、これは小説です。そして、このような反応が両者にとって好ましいのでは、という一種のお手本になるかもしれません。

ただ、あくまでもノーマル(という言葉が適切とは思いませんが)からの見方であり、LGBTの当事者からすれば、全く異なった意見があるかと思います。

でも、僕は、これでも良いと思います。全く理解しようとしないよりは、理解する方向に進むことが大事なのではないでしょうか。その方向が間違っていたら、自ら修正するもよし、他人に修正してもらうもよし。そんな気持ちにしてもらえた本作品、素敵だと思います。

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