冬雷:遠田潤子:ドロドロなんだけど凛と

「冬雷」(072/2020年)

田舎、名家、鷹、巫女の舞、養子。ドロドロ要素満載。さあ、これらの要素をどう捌くのか。「雪の鉄樹」の遠田ですから、もう安心して読んでられます。

主人公、代助は両親を知らない。赤ちゃんのころ、保護施設の前に夏目漱石「それから」と一緒に捨てられていた男の子。その子が田舎の名家の跡取りとして引き取られる。

で、立派に育っていくのだが、ドロドロの王道、まさかの「弟」が生まれる。名家の血を引いた本物の跡取りが誕生する。代助は苦悩する。

さらなるドロドロが襲う。弟が行方不明になる。

その他、中絶、不倫、自殺、いじめといったドロドロ要素が次から次へと出てくるのだが、どこか凛としている。下卑た雰囲気にギリギリのラインで踏み込まない自制心が物語に溢れている。遠田の筆力なのか、登場人物の中に本当の悪人がいないことが醸し出す緊張感。

人間、誰もが何かに縛られている。この作品では、昔ながらの港町の古くからの因習に、町民ほぼ全員が縛られている、雁字搦めに、人の命よりも因習を優先する位に。だが、その中でもがく代助に、ほんの僅か、希望が見える。そこなんだろうな。この作品の力は。


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