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二人道成寺:近藤史恵:こういうの読んじゃうと歌舞伎に行きたくなってしまうじゃないか!

「二人道成寺」(106/2022年)

歌舞伎の世界を舞台にしたミステリ、という紹介になっているかと思いますが、これは間違い。素晴らしき歌舞伎の世界を表現するために、ミステリという手法を選んだミステリ系梨園小説、でしょ。著者あとがきを読んで、こんなにも歌舞伎愛に溢れていることを知りました。勝手に「自転車の人」と思っていたことを、申し訳ありませんでした。

「探偵今泉シリーズ」の第5弾です。まあ、探偵が出てきますが、そこはあくまでもサブ的要素だと思って、それよりも歌舞伎という演劇、文化の表側、そして裏側を楽しむのが主目的です。
本作、傍から見たら現場で言葉も交わさない、バチバチのライバル関係の役者がいて、その一人の奥さんがライバルの役者に会っていて、みたいなところもありつつ、その奥さんが火事にあい意識不明のまま入院中、という状況の中で、その火事の真相を暴くべく今泉さんが頑張ります。
その頑張りと絡み合うように、歌舞伎の面白いところ、不思議なところ、大切なところを緻密に書いてくれています。

歌舞伎ならでは愛憎劇というトリックはありますが、まあ、それはすぐに分かってしまうでしょう。でも良いのです。途中で真相が分かったからつまらない、という読み方をする人は、残念ながらサヨナラです。
途中でその真相に気がついてからこそが、この作品の楽しみなんです。事件解決のカタルシスのための作品ではありません。歌舞伎ならではの醍醐味を存分に享受すれば良いのです。

歌舞伎座の徒歩圏に住みながら、中には3回しか入ったことがありません、、、反省。本物の歌舞伎、見たくなりますね、これは。



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