樽とタタン:中島京子:孤独を楽しむ人たち

「樽とタタン」(115/2020年)

いいな、この喫茶店。

かわいいな、タタンちゃん。

少し「ズレた」人たちが集う喫茶店での何気ない日常が描かれている。でも、本当は全然ズレていないんだけどね。紹介文に書かれている「ヘンテコで愛おしい大人たち」の方が正しいかな。

ズレって、何からズレてるわけで、その「何か」が問題なわけで。日本では、その「何か」の事を世間と呼んだりして、その何かのために息苦しい生活を送っている人たちも多いわけで。

この作品の登場人物は、世間から見れば孤独に見えるかもしてませんが、当人たちは全く孤独だと思っていません。というか、孤独にネガティブなイメージを持っていないし、この喫茶店とは違う場所では、適当に孤独じゃないフリをして周囲を誤魔化しているかも。孤独を楽しむという表現が良いのかも。

短編連作集です。以下の9個のタイトルを見ただけで、読みたくなっちゃうでしょ。

「はくい・なを」さんの一日・ずっと前からここにいるもう一度・愛してくれませんか・ぱっと消えてぴっと入る・町内会の草野球チーム・バヤイの孤独・サンタ・クロースとしもやけ・カニと怪獣と青い目のボール・さもなきゃ死ぬかどっちか

世間の話は「町内会の草野球チーム」で書かれていますね。この世間を好む人もいるし、好まない人もいる。たまたま、この喫茶店には「好まない」人たちが集まってるだけなんです。

で、起承転結は特にありません。ありきたりの物語を読みたい人は、本作品は読まない方がいいです。ベタな「心温まる」とか期待している人も。

タタンと同じ時間、空間を過ごしている気分になるだけで幸せ、そういう作品です。タタンとして愛おしい大人たちとの不思議なコミュニケーションを楽しむ、実に面白い。

これで心温まる人もいるし、その逆の人もいるでしょう。タタンのことを「カワイイ」と思う人もいるし、「生意気なガキ」と思う人もいるでしょう。僕は前者ですが、もし、20年後に読んだら…いや、前者変わらずでしょう。

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