ヒストリア: 池上永一:今までの熱気が一気に凍り付く

「ヒストリア」(122,123/2020年)

スケールの大きな作品でした。作者のお家芸、沖縄の物語と思いきや、なんと南米の第二次大戦後の各国の革命に話が広がるとは思いもしませんでした。ゲバラまで登場するなんて、そしてキューバ危機まで絡んでくるとは。物語の無限の拡がりは誰にも止められないんですね。

でも、しっかり沖縄テイストがコアを占めています。主人公、知花煉がマブイ、魂に近いもの、を落としてしまう。このマブイが勝手にもう一人の知花煉として動き出す、双子のように。

主な舞台はボリビア、正直なじみのない南米の国です。真ん中の真ん中にあるんですね。そこに移民した知花の活躍が描かれているのですが、なんとパワフルなことか。もう滅茶苦茶です(笑)。でも、何となく、リアルさを感じてしまうのです。失礼かと思うのですが、ボリビアだったら、このくらいのことは許されるんじゃないかと。

本当は地獄のような悲惨な状況だったのでしょう。でも、それをぶち壊していくヒロインの姿、天晴です。小説だからこそ成立するファンタジー、ボリビアの荒野に凛と立ち、涙をこらえて微笑んでいる彼女の姿が見えてきます。

CIAをかく乱し、元ナチスを潰しつつ、核戦争まで阻止していまう知花の暴走っぷりを堪能した後に最後は沖縄に戻ります。

その切ない結末、、、最後に、これまでの大活躍を全て帳消しにしてしまうほどの破壊的な事実。これが著者の伝えたかったメッセージなのか。今までの熱気が一気に凍り付く、物凄い作品でした。

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