鵜頭川村事件: 櫛木理宇:犯罪者に肩入れする危ない感覚

「鵜頭川村事件」(10/2021年)

ホラーかと思って読み始めたら、もっともっと怖い話でした。誰が悪い、って単純な話じゃありません。だから怖いのです。

舞台は1970代の日本の「田舎」の村です。昔からの家のロジックで構成され、しがらみに雁字搦めで、女性に人権なんてない、あの「田舎」です。この状況の中で、豪雨により村の孤立状態になったことをきっかけに事件は起きます。簡単に言えば、弱者の革命がおこるのです。

ここでいう弱者とは、村の「名家」筋じゃない人たち、そして親に押さえつけられた若者たち。女性が入っていないのが時代をしっかり捉えているところだと思います。

名家の馬鹿息子が犯したと思われる「殺人事件」でくすぶっていたモノが徐々に臨界点に近づいていく様を頼もしく思ってしまう感じ。実は、この流れは自然発生的なものではなく、首謀者が意図的に作り出したモノなのだが、その首謀者を応援したくなる感じ。犯罪者サイドの心情に同情し、そこに自分を重ねて興奮していく感じ。

そう、このように感じている自分が一番怖いのです、この作品は。

主人公の明は「よそもの」であり、一番大切なモノは娘であることから、この革命から離れていることが出来ます。ただ、余波が自分の娘に及んでしまった時は、、、

犯罪、暴力は絶対にいけません。ただ「正当防衛」という非常に難しい概念が存在します。また「革命」は成功すれば正義、失敗すれば「犯罪」です。誰が悪い、なんて簡単に決められないのです。

ただ、その隙間を利用する悪人はいます。それは悪です。本作品の場合は、首謀者が悪人なのですが、そこまで悪じゃない、支持したくなる要素もあるのです、そこが怖い。

犯罪者に肩入れする危ない感覚は、古今東西エンタテインメントの一つの大きな要素です。本作品でも堪能できます。ホラーじゃないので、安心して読んでください。



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