まるまるの毬:西條奈加:悪人の去り際に感動

「まるまるの毬」(59/2022年)

まさかの江戸ものでした。このタイトルと表紙のイラストを見て、さりげない日常に潜む何か系の小説だと思っていたのですが、、、この作家さん初読なので、幸運な誤解をしてしまいました。こういう出会いを楽しみたいので、出来る限り事前情報はなくままページを開きたいんです。

江戸は麹町にあるお菓子屋さん「南星屋」の物語。父、治兵衛と娘、その娘、三人で切り盛りしている庶民をターゲットとした大繁盛店です。ただ、この父、とんでもない秘密をかかえています。

カスドース、若みどり、まるまるの毬、大鶉、梅枝、松の風、南天月、七つのお菓子と共に7つの小さな物語が楽しめます。父は諸国を回って、その土地土地で菓子修行をしてきたため、様々なタイプのお菓子を作れます。そのお菓子に引き寄せられるのは、超偉い人から普通の人まで様々。その人たちの立場によって物語のスケール感は代わりますが、最終的に人情物であることには変わりません、みんな良い人たちです。

ただ、終盤に出てくる、治兵衛に敵対心を燃やす男だけは悪人だと思われますが、彼の去り際の描き方は見事です。よくあるパターン、悪人が改心するのではないのです、最後まで悪人のまま舞台から消えていくのです。でも、その悲しい様は、人の同情というか、なんというか、切ない気持ちになります。彼のしたことは酷すぎて、許されることではありません。実際に多くの人が不幸になってしまいました。その彼の、最後の姿は、本当に心を揺さぶられました。

江戸人情もの、やっぱ楽しいですね!


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