「アカデミー賞とは何か」をあらためて、選考基準や投票方法
世界で最も注目される映画賞の一つ、アカデミー賞。素晴らしい映画作品や俳優にオスカー像を贈るというざっくりしたイメージは多くの方がお持ちだろうが、もう少し解像度を上げていただくと、アカデミー賞を、映画を、より楽しめると思うので、かんたんにご紹介したい。
オスカーとは
主催団体は「映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences:AMPAS)」。ここの会員が無記名で投票を行うことによって、ノミネートから最終的な受賞者までを選出している。
受賞による賞金はなく、与えられるのはオスカー像と輝かしい名誉のみ。
このオスカーとはあくまで愛称であるが、公式サイトでも「OSCARS」と記載され、授賞式のプレゼンターも発表の際に「the Oscar goes to...」という決まり文句で発表することなどから、ほとんど公式として定着していると言ってもよい。
そのオスカーの由来も諸説があり、アカデミー賞の事務局員が像を見て「自分のおじさんのオスカーにそっくりだ」と言ったことが始まりだとするオスカーおじさん説や、現存する最古の記述、第6回授賞式(1934年)の報道を執筆したジャーナリストのシドニー・スコルスキー自身が考えたというスコルスキー説などがある。
分からないというのが、なんとも興味深い。
応募条件
アカデミー賞は、アメリカ映画の発展を目指すアメリカの映画賞なので(当たり前だが)アメリカ以外の国の映画は、そもそも応募条件をクリアするハードルが高い。その条件とは下記のようなものだ。
1日3回以上、かつ1週間以上、劇場公開されるというのが最低条件なのだ。
また2014年度と2015年度の演技部門のノミネートが全員白人俳優だったことが議論の的となり、多様性を尊重するべく、人種・民族・性的・身体障害を持つ人などの雇用や表現に関する4つの基準のうち、2つを満たすことが「作品賞」の新たな応募条件として加わった。
主要キャストや製作陣、製作・配給会社の幹部やインターンまで、少数派の人材起用や意見の反映が求められる。
部門
2024年3月現在、アカデミー賞の部門は作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、撮影賞、脚色賞、音響賞、短編アニメ賞、歌曲賞、作曲賞、編集賞、助演男優賞、助演女優賞、視覚効果賞、脚本賞、国際長編映画賞、衣裳デザイン賞、短編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、短編ドキュメンタリー賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、長編アニメ賞の合計23部門がある。
この中で主要5部門と言われるのが作品・監督・主演男優・主演女優・脚本 or 脚色賞で、この5部門を独占した映画はこれまでに3本しかない。
あまり違いが分からないとたまにご質問をいただくのが「脚本賞と脚色賞」、そして「作品賞と監督賞」である。
「脚本賞と脚色賞」は分かりやすい。
どちらも「映画の脚本」を表彰する部門だが、小説・戯曲・漫画などの原作があったり、リメイク作品だったりする場合などは「脚色賞」の対象となる。オリジナルストーリーの有無で判断するのが簡単だ。
後者については「作品が凄い=監督が凄いなのだから、同じことでは?」という疑問をたまにいただくが、「作品賞」は作品を選出するのと同時に、その作品のプロデューサーを表彰するものである。多くの場合、プロデューサーは資金繰りからプロモーションに至るまで映画の全ての過程に関わり、そのプロデューサーに雇われる「作品づくり」に関する責任者が映画監督という関係性だ。
なので「作品賞」と「監督賞」は別の部門なのである。
今年の作品でいうと、マーティン・スコセッシやクリストファー・ノーランなど、映画監督自らプロデューサーを兼任している映画もあるし、エマ・ストーンやマーゴット・ロビーなど、主演俳優がプロデューサーを務めているケースもある。
『マエストロ その音楽と愛と』に至っては、ブラッドリー・クーパーが主演・監督・プロデューサーで、3部門にノミネートされるという快挙を成し遂げた。
さらに再来年からは「キャスティング賞」が新設され、「ジョン・ウィック」シリーズで有名なチャド・スタエルスキ監督も、スタント部門新設を目指してアカデミー側と話し合いを続けているそうだ。
投票方法
先述の通り、選出は映画芸術科学アカデミー会員の無記名の投票によって決められるが、ノミネートと最終選考ではその方法が若干異なる。
「作品賞」だけは、ノミネートも受賞者の決定も会員全員による投票で、受賞者決定時には1位、2位、3位と順位をつけるランキング方式。
それ以外の演技部門や、視覚効果、脚本、衣裳デザインなどは、ノミネート段階では同業者の会員の投票によって決められる。つまり演技部門は俳優が、脚本部門は脚本家による投票が行われるのだ。ノミネート選出後、受賞者決定の投票は、いずれの部門でも会員全員の投票となる。
ではそのアカデミー会員は世界中にどれくらいいるのかというと、2024年3月現在10,500人を超えている。職業ごとの内訳は、現在より会員数が1,000人ほど少ない2022年1月時点の数字になるが、下記をご参照いただきたい。
あくまで個人的な所感として思うのは、監督や視覚効果は意外と人数がいるが、メイクアップや衣装の人数は想像以上に少ない。
映画はアート以前にビジネスでもあるので、受賞やノミネートの有無によって世界興行収入が桁違いに変わるであろう映画賞は、かなり細かくルールが定められているのがお分かりいただけるだろう。
日本人としてはもちろん『PERFECT DAYS』『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』を応援しているが、同時にイチ映画ファンとしてアカデミー賞を楽しみたいし、みなさんにもぜひ楽しんでいただきたいと思う。
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