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「カンヌ国際映画祭」の関係者エリア内はどうなっているのか

カンヌ国際映画祭についての観光客向け日本語情報があまりなかったことから、実際に来てまとめてみたのが下記の記事。

ただ今回、筆者は幸運にも関係者エリアに入らせてもらい、いくつかの公式上映に参加することができたので、一般公開されない「関係者エリア」内についても、せっかくなので併せてご紹介したい。

まずは映画祭のメイン会場である「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ(Palais des Festivals et des Congrès de Cannes)」、そのメインスクリーンともいえる「GRAND THÉÂTRE LUMIÈRE」の内部。ニュースでよく見るレッドカーペットのその先だ。

上映の参加者は、監督や主要キャスト陣と同じレッドカーペットを通って入場するが、タイミング的には監督らよりも先となる。後から会場内に入ってきた彼らを拍手で迎え入れ、着席を待って上映が始まるという順だからだ。

筆者はタイミングが少し遅れ、すでに監督らがレッドカーペット
(画像:左奥)にいたので別導線からの入場
レッドカーペットを歩いた階段の上から
この階段を上がった上階の席から鑑賞
劇場内
下記のような報道でよく見る会場がここ
写真:毎日新聞「カンヌ映画祭「パーフェクトデイズ」上映 役所さん主演」より

ちなみによく「5分間のスタンディングオベーション」といったような報道がなされるが、誤解がないよう補足すると、基本的にはどの作品も、上映前に監督をはじめとするメイン製作陣と主要キャストが拍手と共に迎えられ、終了と共にスタンディングオベーションで称えられる。

カンヌで公式上映されるまでにもいくつかの審査を経て、数ある作品の中から選ばれるため、上映されること自体がそもそも素晴らしい功績なのだ。スタンディングオベーションはそれを称賛するもので、「作品が素晴らしかった」という理由だけで起きるものではない。

『THREE KILOMETRES TO THE END OF THE WORLD』
スタンディングオベーションの様子

「〇分間」といったフレーズも、会場では”監督らが退場するまで拍手で称える”ことがいわばお約束になっており、イコール観客にどれだけウケたかを示す尺度ではない。ただ、これらはあくまで習慣として定着しているだけで、スタンディングオベーションが起きなかったり、ブーイングが起きたりする作品も稀にだがある。

今となっては意外に聞こえるが、1994年にカンヌ最高賞であるパルムドールを受賞した『パルプ・フィクション』も、表彰式ではふさわしくないという理由で一部からブーイングが起きている。

Images Courtesy of Park Circus/Paramount

なお映画祭ではスクリーンの数が限られているため、公式上映のチケットは関係者による争奪戦となる。チケットは個人(関係者パス)と紐づいており、予約した回に現れない場合、映画祭中は別の作品を予約できなくなるという重いペナルティが課される。

多くの関係者はビジネスのために来ており、急な商談などでキャンセルが出るケースも少なくないので「キャンセル待ち」で登録しておけば、追加当選のような形で入れることも。

次に監督週間の会場である「JW マリオット(JW MARRIOTT)」のメインスクリーン「THÉÂTRE CROISETTE」をご紹介したい。お見せするのは山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』上映の様子である。

1階席と2階席で入口が分かれており、筆者は2階から
上映終了後のインタビューの様子
撮影用パネル

ちなみに茄子のキャラクターは、2024年の監督週間のメインビジュアルとして北野武監督が書いたもの。映画祭のメインビジュアル、黒澤明監督の『八月の狂詩曲』と揃って、日本の名匠によるクリエイティブで統一された形だ。

このビジュアルを使った公式グッズは大人気で、Tシャツとピン・ブローチは映画祭終了を待たずに完売した。

写真:映画『ナミビアの砂漠』公式Xより

メイン会場のすぐ横には各国のパビリオンが並んでいる。

入口ではパスチェックと身体検査があり警備は厳重
各国のパビリオンが立ち並ぶ

パビリオンには、映画祭の期間中におけるその国の「総合窓口」のような機能がある。映画祭へ出展したいといった内容や、その国で撮影するにはどのような手続きを踏めばよいか、日本と合作で映画を作りたいなど、様々な問い合わせを受ける交渉の場だ。

また国同士の交流も主な目的としており、ビジネスライクというよりは常に立食パーティーが行われているような雰囲気があって、夜には公式にパーティーを開催しているパビリオンも多い。

サウジアラビアのパビリオン
タイのパビリオン

日本のパビリオンを運営しているのは公共財団法人ユニジャパン。東京国際映画祭を開催するほか、日本映画・映像コンテンツの海外展開支援を行う団体だ。

日本のパビリオン①
日本のパビリオン②

パビリオンエリアのすぐ横で開催されているのが、国際映画見本市(フィルム・マーケット)である「マルシェ・デュ・フィルム(MARCHÉ DU FILM)」。

カンヌはベルリン、ヴェネチアと並ぶ世界三大映画祭であり、そしてイタリアのMIFED、アメリカン・フィルム・マーケットと並ぶ世界三大映画マーケットでもある。つまりカンヌ国際映画祭は、三大映画祭と三大マーケットが併設される唯一のイベントなのだ。いかに注目度が高いかお分かりいただけるだろう。

「マルシェ・デュ・フィルム」の入口

先ほどのパビリオンは、各国から日本でいうユニジャパンのような団体が出展しているものだが、マルシェには世界中の映画の配給会社、宣伝会社、バイヤーが集結。バイヤーは配給会社のブースを回って自国での公開可否の判断や買い付けの値段交渉、配給会社は自社作品のプレゼンなどを行う。

写真:毎日新聞「映画祭のもう一つの顔「マルシェ・ドゥ・フィルム」」より
マルシェ内のラウンジスペース

以上、非常にざっくりだが「カンヌ国際映画祭」関係者エリア内の紹介である。

最後に関係者エリアではないが、現地と日本における報道の違いについて、少し触れて終わりにしたい。

現地にいながらも、日本メディアのカンヌ国際映画祭関連ニュースにはひと通り目を通していた。その主だったレッドカーペットの様子や日本からの出品作品についての情報とは異なり、2024年の開幕当初、現地で特に話題を集めていたのが「#MeToo」運動についてである。開催後数日はX(旧:Twitter)でもずっとトレンド入りしていた。

加えて映画祭はストライキの危機にも直面していた。フランスの映画祭労働者組合は、運営側に対して賃金に対する不満を持っていたのだ。

日本の一部のメディアからもそういったニュース出ているが、やはり現地よりはどうしても少ない印象だった。

良い面にスポットを当てることも重要だが、それ以外の部分も知ることが物事のより深い理解につながる。冒頭に紹介した「観光客向け」記事と結論は同じになるが、やはり現地に実際に来てみて肌で感じることが、その一番の方法になるだろう。世界最大規模ともいえる映画祭に、ぜひとも一度は足を運んでいただきたい。

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