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Satisfaction

中学時代にだけ親交のあった同級生で、Oという友人がいた。2年生で初めて同じクラスになり、よく話すようになる。仲良くなったきっかけは覚えていないが、会話の大半はお互いを嘲笑することで占められていた。音楽でいうと僕が洋楽派でOが邦楽派。自分の好きなバンドをプレゼンし合い、どちらが音楽的に優れているかで勝敗を決めていた。いつも決定打に欠けていて、ほとんどが屁理屈を上塗りしただけのどうでもいい内容だったが、思春期の男子とはそういうものだ。
休憩時間になる度に音楽の話で盛り上がったが、気づかないうちにOは洋楽派に転向していた。僕が好んで聴いていたバンドをOも聴くようになり、名盤はどのアルバムかで言い争うようになった。
振り返ってみると、明らかに僕の影響を受けていて、こっそり寄せてきているのが分かる。お互いに異なる領域で張り合ってきたのに、Oは素知らぬ振りで僕の世界にふらっとやってきたのだ。その態度は、俺の方が先に聴いていたと言わんばかりに堂々としていた。しかし、当時はOの主張の変化に対し、何も感じなかった。態度の豹変を感じさせず、知らぬ間に涼しげな顔でテリトリー内に侵入している。もう何年もそこに佇むように存在し、馴染んでいた。
中学校を卒業すると同時にOとは疎遠になり、親交は途絶える。屁理屈で胡散臭いやつだったが、いつもほどよいテンションで一緒にいると気分が紛れた。
Oから興奮気味に、ローリング・ストーンズのサティスファクションを薦められたことがある。
I Can't Get Noのメロディをハミングしながら、お前も聴いた方がいいよと言われたが、その曲、数日前に僕が薦めたやつなのよ。

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