見出し画像

24 農林48号(PHANTOM RICE) とは

夕暮れ時に、水田のほとりの用水路を眺めていたら、透き通るようなきれいな水が流れていました。今日は、幻の米と呼ばれる農林48号、通称「48米」について少しお話ししながら、山梨の魅力を再発見したいと思います。

ちなみに、農林48号と呼ばれるお米を皆さんは食べたことがあるでしょうか?農林48号という名前はあまりなじみがないので、食べたことがあるかどうかわからないという人も多いかと思います。では、「武川米」または「梨北米」と言ったらいかがでしょうか。食べたことがあると答える方も増えたのではないでしょうか。

そうなんです。農林48号は「武川米」や「梨北米」といったブランド名で知られる幻の品種なのです。味の特徴は、まず香りに甘みがあることです。それはそれは食欲をそそる甘い香りがします。そして、もっちりとした食感で旨味のある味が噛むほどに広がります。

江戸時代のころより武川米は、将軍家への献上米として扱われていたことからも、この地域が米作りに適した地域であることがわかります。南アルプスから流れる清らかな水は、日照率の高さ、適度な気象、そして花崗岩質(かこうがんしつ)というきめの細かな土壌に恵まれていることがこの要因とされています。

農林48号の歴史をさかのぼると、誕生したのは戦後すぐのことで愛知県の農業試験場で開発されました。それが、戦後4年が過ぎた1949年のことです。品種改良のもとになったのは、農林8号と陸羽132号でした。この2種類の米を交配したのが農林48号というわけです。戦後間もない食糧難の時代でしたから、米の品種改良は大切な事業の一つであり、農業の発展は国の大きな支えとなるものでした。農林48号は主に山梨、富山、栃木などで積極的に生産されていました。

ところが、この農林48号、稲作を進めるうえで困ったことがあったのです。それが、病害虫に弱いといった点です。生産者からすると病気に弱い品種は、安定生産ができないため、山梨の八ヶ岳南麓以外の他の地域では別の品種の生産が進んでいきました。つまり、より丈夫でたくさん収穫できる品種に人気が高まっていったのです。それにより、農林48号はその姿を消していったというわけです。

そんな、病気に弱いが味は最高という幻の米、農林48号ですが、八ヶ岳南麓でわずかに生産され続けていました。それも、自宅用に栽培している程度で一般にはごくわずかしか流通していなかったのです。まさに幻のお米というわけです。

そのお米の栽培面積を広げていったのが、地元のJA梨北さんと米農家の皆さんだったのです。梨北米はこうして農林48号を品種として栽培された、山梨を代表するブランド米になっていきました。武川の地域でとれるものを武川米と呼んでブランドを分けてはいますが、同じ農林48号なのです。

この美味しいお米を私たちが普段から口にできるようになったのも、こうした守る人々と広げる人々の努力が重なり合ってのことだといっても過言ではありません。幻の米には、山梨の魅力が詰まっているように思います。それは、「うまい水」「恵まれた気候と土壌」そして、「挑戦し、守り続ける人々」です。皆さんも、武川米や梨北米の味と歴史を通してぜひ、山梨の魅力を再発見してみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?