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133 インドとバーラト


はじめに

今年、人口は中国を抜き、世界一の14億以上が暮らす国、それがインドです。IT大国とも言われていますし、宇宙探査機の月面着陸を成功させるなど世界からの注目が集まっています。
今日は、このインドの国名がバーラトに変更されるのではないかという話題について子どもたちから質問を頂きましたので、それに少しお答えしてみたいと思います。

話題のきっかけ

今回のインドの国名が変わるのでは?という話題は、インドで開かれていたG20首脳会議に関係しています。ニューデリーサミットと呼ばれるこの会議に出席する首脳宛に出された招待状や各国の名前を示すプレートに「バーラト」と記されていたことにあります。
今回の出来事についてインドでは、大きな論争になっています。インドという名前は、他民族、他宗教を望むインドの人々たちにとっては理想の名前ですが、バーラトは、ヒンドゥー教を重んじる人々にとって大変理想の呼び方なのです。バーラトとはヒンディー語で「インド」を示す言葉で、憲法上ではインドと並ぶ正式国名とされています。インドで行われる選挙が近づいていることもあり、今回のバーラトという国名でのサミットでの表記について様々な考えが飛び交っているようです。

国名が変わるとき

国の名前、国名が変わるのはどのような時でしょうか。例えば、中国や韓国の国名は王朝の名称と共に変化してきています。王朝が変わるとは、王家が変わる時を意味します。
こうした現象は、ヨーロッパでも歴史上たくさん見られます。フランスはフランク王国から、カペー朝に変化するなど、王家が変わった場合にこのような現象が生じています。
王朝の変更とは別に政権基盤が変わるのと同時に変化する場合もあります。ミャンマーなどは有名な例です。ビルマという名称から軍国主義が民主化するなかで、ミャンマーと呼ばれるようになりました。

日本の国名の変化

日本の呼称は古くから数多くあります。大和政権による統一のころは、「やまと」「おおやまと」とよんでいました。このころ中国では日本のことを「倭」と呼んでいたことは有名な話です。
現在なじみのある「日本」が国号として定められた時期は定かではありません。大化の改新のころから大宝律令が定められたころだという説を読んだことがあります。近代の正式な国号だけ見ても、明治時代は「大日本帝国」でしたし、1945年の終戦以後、現在の憲法が発布されたのちは、「日本国」と呼んでいます。英語で、Japanは「日本国」と訳すわけです。

名は体を表す

国名の変更は、何も珍しいことではありません。政治の基盤が変更されたような場合や植民地からの独立を成しえた時など様々な理由で発生しています。現に、ここ数年の間にもいくつかの国が名称を変更しています。

マケドニア共和国 → 北マケドニア共和国
スワジランド → エスワティニ
フィジー諸島共和国 → フィジー共和国
ハンガリー共和国 → ハンガリー
ガンビア・イスラム共和国 → ガンビア共和国
グルジア → ジョージア

少し調べただけでもこのようにいくつかの国名が変更されていることがわかります。「名は体を表す」と言いますが、国名や国旗はその国のアイデンティティの塊であり、代表的なものであります。
ですから、特定の国を批判したり中傷したりしたいと考えた時、人々は他国の名前をいじったり、国旗を焼いたり破ったりする形で意志を示す手段に出ることがあります。こうした光景は、たびたびニュースで目にすることができます。
日本の刑法に「外国国章損壊罪」というものがあります。これは、日本国旗の損壊罪ではなく、日本以外の国旗を故意に損壊してはいけないというものです。
これとは少し違い、自分の国の国旗を損壊してはいけないという法律もあります。米国、フランス、ドイツ、イタリア、中国では、自国国旗の損壊罪があります。独立国として当然の法律であるわけですが、日本は自国の国旗に対する損壊について罰する法律が十分ではありません。

国家観

「観」とは「見解」という意味を持つ言葉です。〇〇観という言葉は、〇〇に対する見方といえるわけです。国名が示すものはまさに、国への見方、その国への見解そのものに関わってくると言えます。
インドという国名がバーラトにかわるとすれば、どのような国家観の変化が生じるのでしょうか。今回の話題は、そのくらい大きなテーマの話なのです。
大日本帝国から日本国へ変更した時代に、私たち日本もおそらく大きな国家観の変更に一人一人の国民が直面したはずです。

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