築かれた絆

 俺には弟がいる。
 父と再婚した女性の連れ子で血のつながりはない。
 幼少期はとても仲が良く、俺にとってかわいい弟だったのだが、俺が父の会社を継いだころから、弟との仲が悪くなった気がする。
 弟のアキラはとても頭が良く、周りの人に優しく、今では人に慕われるいいやつだ。
 しかし、なぜか俺には素っ気ない。というか、冷たいのだ。
 
「アキラ、久しぶりに一緒に飯でも食べに行かないか?」
「いや、やめておくよ」
 
 電話をかけて食事に誘っても、断られるばかりだ。
 でも、毎回、電話には出てくれるから不思議ではある。
 
 アキラはうちの会社とは別の会社で営業をしているそうで、成績も優秀らしい。
 我が弟ながら立派だなとつくづく思う。
 一方、俺は父の会社の立て直しで精一杯だった。
 父が急死したことで、会社は業績が悪くなっていてそれを立て直すために俺は継いだ。
 だが、立て直すのは困難を極める。
 それがわかっていたからこそ、アキラが俺の会社に入るといったときに反対した。
 アキラを巻き込みたくなかったし、あいつには自由な選択をさせてやりたかった。
 
 子どものころ、一時期、連れ子というだけの理由でアキラがいじめにあっていた。
 そんなことを理由にいじめるやつらの神経が理解できないが、俺も父もアキラのことを大切に想っていた。大切な家族以外の何ものでもなかった。
 その気持ちは今でも変わらない。
 俺と仲が良くなくても、アキラが幸せならそれで構わないと思っている。
 
 会社の立て直しがなかなかうまくいかない最中、アキラは独立して自身の会社を設立すると連絡をしてきた。

「おめでとう。上手く軌道に乗るといいな」
「兄さんに言われるまでもないし、兄さんに言われたくない」

 それはそうか。
 経営が上手くいっていない俺にそんなことを言われる筋合いはないだろう。
 有能な弟なら俺が言うまでもなく、やっていけるだろう。
 
 そんな折、経営改善のきっかけになるはずだった大手企業との契約が一方的に打ち切られてしまった。
 あまりに突然で、従業員もかなり困惑してた。
 しかし、困惑しているだけではいけない。
新しい企業との契約を結ばなければ、本当に会社が立ち行かなくなってしまう。
 そう思って、従業員と一緒に契約先を探したがなかなか営業の結果はあまりよくなかった。
 
 このままでは本当に会社をたたまなければいけなくなる。
 血のつながりがないアキラも尊敬していた父の会社をここで途絶えさせることになってしまう。
 途方に暮れていた時、アキラから連絡があった。

「兄さん、大手からの契約が打ち切られたって本当?」
「ああ、本当だよ。だけど、気にするな、なんとかするさ」

 俺が強がってみせると、アキラは大きなため息をついたかと思うと声を荒げた。

「なんで、そこで気にするな、なんて言うんだよ! 弱音を吐けよ! なんで、僕に相談してくれないんだ! 愚痴でもいい、助けを求めてもいい。なんで、僕を頼らないんだ!」
 怒りに震えるその声は数年間、ため込んでいたであろう俺への不満と怒り。そして、寂しさに溢れていた。

「僕がなんで、自分の会社を作ったと思ってる。兄さんが会社に入れてくれなかったのもある。だけど、それだけじゃない。兄さんが父さんの会社を立て直すのを別の方向から助けられると思ったからだ。なんで……気づいてくれないんだ。そんなに僕は頼りないか……それとも、血がつながっていないから僕を遠ざけるのか?」

 アキラが今まで俺に冷たかった理由がわかった気がした。
 俺がアキラを思ってしたことが裏目に出ていたからだった。
 自由な選択をさせてやりたいと思いながら、一緒に会社を立て直したいという弟の選択を奪っていたからあんな態度をされていたんだ。

「血がつながってないとかそんなのは関係ない。すまない。ただ、お前にまで重荷を背負わせたくなかっただけだったんだ。だけど、お前にとっては重荷ではなかったんだな」
「当たり前だろ。僕は兄さんを支えるためにいるんだ」

 互いに落ち着いたあとに、アキラから起死回生のプランを提案された。
 うちの会社と提携したいという。
 まだ新進気鋭でそこまで大きい会社ではないが、アキラの会社には勢いがある。
 あまりにも手が回らないので、一部の仕事をこちらに回してくれるそうだ。

「元々、兄さんの会社は仕事の質がいいのにスピードが速いんだ。
ライバル社に取られたら僕の会社としても痛手でもある。
それに……やっと兄さんの役に立てられると思うと嬉しいよ」

 久しぶりにアキラの嬉しそうな声を聴いたような気がした。
 
 その後、アキラの手助けもあって、うちの会社は業績を伸ばすことができた。
 おかけで、経営を立て直すことができた。
 もちろん、アキラの会社の経営も順調だ。
 立て直し成功とアキラの会社設立一周年の祝いを兼ねて、二人で飲みに行った。

「まったく、兄さんは優秀なのに人を頼ることに関しては本当に下手だから」
「優秀なのはアキラの方だからな」
「そうじゃないよ、兄さんが優秀だから、追いかけてるだけだよ。結果的に成果が出てるだけだ」

 そうか、アキラは俺に追いつこうと必死に努力していたから、こんなに優秀になっていたのか。
 本当に俺にとって誇らしい弟だとつくづく思う。
 これからは弟を頼ることもしていこう。

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