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ちょっとまった!DXで解決したい課題、それ本当に合ってますか

筆者は上場企業の数社で「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を支援している。

今日のテーマは、DX失敗事例の根幹にあるものを紹介するものだ。これを読むことで「やっぱりうちの会社ではデジタル化は難しい」と弱腰になる組織や人々が減ることを願うばかりである。

「改革は痛みを伴う」に甘えてないか

正直なところ、DX関連のサービス・コンサルティングには「これはちょっと…」と感じる、いわゆる "イロモノ" が多いのが現状だ。それほどまでにDXが商機と見られている事の証左でもあるのだが、IT企業が作り上げた一過性のブームで終わることはないと思われる。

既存事業のDX後の姿を想像するには『デジタル技術を使って既存事業をアップデートする』ような感覚を持つとよい。

DXを成し遂げると、既存事業がドラスティックに变化することもあり得る。むしろ、そのレベルの温度感で取り組むことで成功に向けた土俵にようやく立つことが出来ると言っても過言ではない。

重要なのはここからだ。

DXに取り組むと判るのだが、DXには痛みが伴う。既存事業の抜本的な改革を迫られることもある。誰でも、やり方を変えたり、在り方を変えたりすることは怖いものだ。だからこそ、思慮深い意思決定を下す経営者(経営陣)には拍手を贈りたい。

しかし、無謀なチャレンジは褒められない。失敗の積み重ねは経験になるが、疲労(失敗)が蓄積して大怪我に繋がるような事態は避けるほうが懸命である。

つまり、既存事業に必要以上の痛みを与えてはならない

であるからこそ、想定される痛みの種類・質を検証してから実行することが大切である。現場の痛みはやがて経営陣にとって大きな痛みとなって返ってくる。

"担当者に任せればいい" 的な発想でDXに臨むのは当事者意識に欠ける危険な行為だ。

だから、会社のトップ層が率先して取り組むことが重要だ。そうでなければ無理にDXなど目指さなくて良い。ITを使って効率化を図る程度で十分なのである。


もっとも多い間違いは課題自体を間違えること

筆者は、アドバイザリー業務の中で、"失敗につながるDX" に警笛を鳴らして事なきを得た現場に何度も立ち会ってきた。立場上、具体的な事例を紹介することはできないが、失敗の根幹にあるものは紹介できる。

それは、そもそもの課題設定を間違えていると漏れなくDXは失敗するということだ。

それがどういうこか見ていこう。


正しい動機に基づいて課題を設定しているか

大前提として、DXは目的ではなく手段である。間違っても「DXをしなければ乗り遅れる」とか「DXを打ち出さなければ株価に影響する」という不純な動機で始めることは避けたいものだ。

DXの正しい姿とは、『何か(の課題)を抜本的に改革するためには、デジタル技術の採用が適切であったが故に、その結果DXになっていた』というものである。これは極めて大切なことである。成功したDXの殆どが『後から振り返るとDXだった』という事が多い


主語を変えれば気付く、重要なこと

仮にとある店舗型小売企業がDXに取り組もうとしており、下記の4つの課題が挙がったとする。しかしそれらは間違った課題設定だ

【DXで解決したい当社の課題】
・現実での顧客との接点を可視化、データ化したい
・日本国外にも当社(商品)を知って欲しい
・顧客とのチャネルをデジタル技術で増やしたい
・ECサイトの売上を高めたい

どこが間違っているかお気づきだろうか。

それは、いずれも主語が「私たち(当社)」なのである。極めて基本的なことで飽きるかもしれないが、不思議なほどに多くの経営者がしばしば忘れてしまうことなので我慢して読んでほしい。

言うまでもなく、どの企業も商売相手は従業員ではなくお客様(顧客)である。にもかかわらず、上記に挙げた4つの課題はすべて「自分たちが自分たちにとって都合がよくなるため」に設定された間違った課題である。

実は、経営者だけでなく、極めて優秀な大手コンサルファームでもこの手のミスをやらかすことがある程に、DXは技術が先行しがちである

ここで改めて、主語と目的を入れてみよう。

【DXで解決したい当社の課題】
・(当社は当社のために)現実での顧客との接点を可視化、データ化したい
・(当社は当社のために)日本国外にも自社を知って欲しい
・(当社は当社のために)顧客とのチャネルをデジタル技術で増やしたい
・(当社は当社のために)ECサイトの売上を高めたい

データ化してメリットを受諾できるのは顧客ではない。

データを用いたネット・ターゲティング広告では「最適な広告が表示されれば、ユーザーが良い商品にたどり着ける」などという旧時代の主張もまかり通ったが、2021年では化石である。

さらに、順に見ていこう。

国外の顧客になりうる人たちは果たして御社の商品を知りたいのだろうか。本当は、国外の顧客に合わせた商品設計が必要なのではないか。

顧客は新たなデジタルでの接点を望んでいるのだろうか。LINEの既読機能が面倒になるほどに、そしてスマートフォンの通知機能が嫌になるほどに顧客はデジタルに疲れているかもしれない。

ECサイトは手段であり、ECでの売上を高めることに意味はあるのだろうか。安易にECに逃げてはいないか。

ちなみに、Amazonはリアル店舗を強化したいと目論んでいる。いまECに力を入れることは最先端のビジネスと逆行しているかもしれない。もちろん、ロジスティクス事業に本格参入して在庫の在り方を変える位に注力するのであれば意味はあるだろう。

最後にそもそも論になるが

【DXで解決したい当社の課題】

これが間違いである。

正しい課題設定は、デジタル技術を通じて自社事業を改革することで "顧客が抱える課題をいち早く解決すること" である。

自社の課題をDXで解決する試みは「高コストなITを活用する効率化」と言い換えてよい。なんて不毛なのだろう。このような事が日本中に溢れているのだ。

言葉遊びのように見えるが決してそうではない。多くの組織においては、トップや経営層が示した指針をもとに、個々の従業員がそれを解釈して行動するのである。だからこそ、誰のためのDXであるのか今一度十分に考えてほしいものだ。


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