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いつになったら足るを知れるのか

宝くじが当たって1億円もらえたら、何がしたい?

...と聞かれたら迷うことなくこう答える。「世界一周!!!」(宝くじ買うことなんてないから一生当たることはないんだけれども…)

私は旅が大好きだ。世界のあんなところやこんなところまで、なんでも見たい!なんでも体験したい!!誰とでも話したい!!!

なんてことない旅が自分の人生にとってかけがえのない財産へと昇華するのは旅先で出会う人々のおかげだと私は思っている。もちろん有名な観光地に行って記念写真を撮ったり、美味しい食事を楽しむのも旅の醍醐味。私だって海外旅行に行けばその国の世界遺産には絶対行くし、地球の歩き方に書いてあるレストランに行ったりもする。でも、一番大事なのは、ネットで事前に入手した情報の確認作業に行くかのごとく観光地を訪れることでもなく、写真映えしそうなレストランでの料理でもなく、人との出会いだ。時にはタクシーで法外な値段を請求され納得できず口論になったりとか、アジア人なためか道端でからかわれたりとか、嫌な目に合ったことだってなきにしもあらず。それでも、私の経験では親切にしてくれた人の方が圧倒的に多いし、今までの旅の印象的な場面を思い出すと、見ず知らずの人の家に泊めてもらったこととか、地元の人と朝まで飲み明かしたとか、そこにはいつも一期一会の出会いがある。

最近出会った上出遼平さんの「ハイパーハードボイルドグルメリポート」という本。訪れた先々で見知らぬ人のごはんを見せてもらい、時に分けてもらう。レストランなんかで出される料理ではなく、普通の人がいつも食べてるリアルなごはん。いやー、こんな究極におもしろそうな仕事、もし求人募集してたら間違いなく申し込む!喉から手が出るほどやりたい!!普通の人が海外旅行の目的地にするような場所ではなくアクセスが難しかったり危険度が高い場所に行き、そこで暮らす人々と会話をし、ごはんを通じてその生活を垣間見るなんて、私が旅でやりたいことがつまっている!最高ではないか…!この本結構分厚くて500ページくらいあるのだが、それはもうおもしろくて止まらなくなって一気に読んでしまった。

その興奮とは裏腹に、とてつもなく沈んだ気分にもなった。この本の中で最も印象に残っている部分でもある、アフリカケニアのゴミ山に住む少年の話。海外にはそういうところに暮さざるを得ない人たちがいることはもちろん知っていたけれど、この部分を読んだ時、同じ地球上に自分とこんなにかけ離れた劣悪な状況にある人がいるなんて、頭をがんと殴られたような強い衝撃を覚えたとともに、自分の日常とあまりにかけ離れすぎていて、にわかに信じられないような感覚に陥った。だって、家族はどこか別の場所に住んでいて、少年が一人ぼっちでゴミ山の不衛生で危険なところに住んでいるなんて…

この本はなんの変哲もないグルメリポートだったり、よくある海外ロケなんかではない。悲しい歴史や貧困などが絡み、今の自分がどんなに恵まれているか考えさせられるなんとも深い本である。で、自分の悩みなんてちっぽけだな、なんて思うくせに、仕事いやだなー、辞めたいなーとかあいも変わらずすぐ思ってしまうしょうもない私… 

私たちが暮らす日本では、普段の生活で命を脅かされるほどの危険に直面することはそんなにない。もちろんみんなそれぞれいろんな苦悩をたくさん抱えて生きてはいるけれど、それでも日本は世界の中でもいまだ豊かな国である。にもかかわらず、満たされていないような感覚を感じる時がある。もっと良いお給料、もっと素敵な家、もっとおしゃれな服、もっと美味しいごはん。あれもこれも、もっと、もっと… 普通に生活する上で何一つ不自由なく暮らせているのに、私は一体何を追い求めているのだろう。旅だって、言ってみれば先進国の平均的な生活水準を有する人間の特権だ。私が抱えるのは世界に出ていきたいという明るい望みだけれど、ゴミ山に住む少年が抱えるのは、ゴミ山を出たいというなんとも切実で悲しい望みだ。

この本を読み終わったあと、私にも何かできることはないのかといてもたってもいられず、思わずケニアに関連した活動をする国際NGOを調べたほど。でも、自分以外の誰かの手助けをしたいなんて、自分にある程度物質的、精神的な余裕がないとできないから、なんかこれ自体がもう恵まれていることの証なんだよな、とも思ったりはするけれど。まあ、とにかくこの本がきっかけで、国際協力とか、NGOの活動みたいなのに興味がある今日このごろ。私にできる最善の活動ってなんだろう。答えを出すのに時間がかかりそうだけれど、行動しないと意味がないから年内には何かしら動きたい。

ちなみに、私の家にはテレビがない。テレビなしの生活を始めてから、かれこれ7年くらい経つ。だから知らなかったけど、ハードボイルドグルメリポートは元々テレビで放送されていた番組だ。Netflixで見かけておもしろそうだと思って観たら衝撃的なおもしろさで、本も出ているのを知ったので本も読んだという流れ。私は読書好きというのもあるけれど、それを差し引いてもやはり本をおすすめする。本の方が上出氏の心情がよく伝わってくるから。

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