鉄くずの人生:ある金属加工屋の悲喜劇


1足のトゲと鉄の味:金属加工屋デビュー

秋の始まり、私は金属加工屋で仕事を始めた。焼きの入った鉄を機械で削る仕事だった。仕事自体はマニュアル化されており、作業そのものはそこまで大変ではなかった。ただ、時々足に突き刺さる金属のトゲが嫌だった。これらのトゲは木のトゲと違い、なかなか抜けず、皮膚に深く埋まってしまうことがあった。長い間痛みが続くこともあり、作業の不快な思い出となった。


2体育会系マウントおじさん

冬に入る頃、先輩社員と仲良くなろうと、住んでいるところは近いかを聞いてみたことがある。答えはまあ、という素っ気ない返答だった。コミュニケーションをする意欲がなくなった。

その先輩社員は私の直接の上司ではなかったが、度々仕事で絡みがあった。細かいことや、言われていないことを図面も見せずに作業が終わったあとで文句を言うことがよくあった。また、帰るときに門をしめろ、など、明示されていない仕事をさせようとすることがよくあった。私は彼が嫌いだったし、彼も私が嫌いだったのだろう。


3残業という名の時間旅行

直接の上司は、作業が定時に終わっていないとき、あとちょっとなので残ってやって、と言ってサービス残業をさせることがよくあった。急いでやるが、チェックが雑になったり、ミスしたり、場合によっては30分以上残ることもあった。

それを社長に告げても改善されなかった。労基署に電話しても忙しくてしばらく対応できないし、いつになるか分からない、という答えだった。結局何も変わらなかった。


4さよなら鉄の檻、こんにちは自由の涙

次年度の冬が近づく頃、ある日会社で涙がでてきた。惨めすぎて、苦しくなった。仕事での辛さだけでなく、プライベートでも問題が重なっていた。友人との関係がぎくしゃくし始め、何気ない会話でも気まずさを感じるようになっていた。休日に遊びに誘うこともなく、ただ孤独を感じていた。

仕事でのストレスを友人に相談する気も起きなかった。職場でも家でも孤独を感じ、心が限界に達していた。

涙が止まらなくなったその日、仕事とプライベート、両方の重圧が一気に押し寄せてきた。もう耐えられないと感じ、その後、私は会社を辞めた。次年度の冬が始まったばかりのある日、足に刺さった金属のトゲの痛みを感じながら、機械の音をBGMに、私は静かに退場した。

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