入澤さん連載イラスト

香木への招待

入澤香木研究所
「敷居が高い」と思われがちの香木・香道ですが、私は単純に香木の香りに魅了され過ぎて、その敷居を感じる間もなく不躾に接してしまったと今さらながら猛省しています。しかし、香木・香道を通じて私と関わっていただいた方々は、皆様素晴らしい人間力をお持ちでした。この連載は若輩者である私にご指導・ご鞭撻下さった諸先輩方、そしてこれから香木に触れることになる方に向けて、これまでの感謝とともに、香木を通じた心の変化を綴っていきたいと考えています。いつの日か、この連載を読まれた方と香木について語り合える日が来たらと夢見ております。

まさかこれほど愛しく思うものと深い付き合いになるとは、その時は思いもしなかった。今でこそ香木が持つ精神的な、そして経済的な価値は理解しているつもりだが、その時の私には悪魔の誘惑とも言える、あまり良い出会いではなかったかも知れない。

今から9年ほど前の、神楽坂の会員制Barが「香木」との出会いの場だった。もう終電もない深夜、仕事でご一緒させていただいている、高齢の強面に1対1で誘われて入った。映画でしか見たことのない、店が来る人を選ぶような、まさに大人のBar。その圧倒的な雰囲気に気圧されていた。私はまだ新卒で入社して1年も経っていなかった。

強面の彼は静かに“仕事の流儀”を語ってくれた。博学の彼は仕事以外にも様々な話をしてくれた。どういった流れかは覚えていないが、正倉院の蘭奢待の話が出た。隠れ文字について、そして「香木」について。それまでの私は「香木」という存在・言葉すら知らなかった。まさに白紙状態。そんな“若いもん”が、高齢の彼には少し可愛く映ったのかもしれない。「お前はなーんにも知らないなぁ」と言いながら、彼は手帳を出した。分厚い年季の入ったまさに“黒革の手帳”。その中からひとかけらの木を出して、おもむろにZIPPOで炙り、その木の固まりに恍惚の表情で鼻を近づける。気持ちよさそうに何度か大きく呼吸した。「これなんだよなぁ」と語りつつ、木の固まりとZIPPOを預けられた。「君もやってみなさい」。

──私は正直、危ないものだと思った。Barにはもう私たち二人しかいないし、バーテンダーも店じまいの用意で遠くにいる。この機会を狙っていたのか?

早く出世したかった。ここで断ったらせっかくの大型案件がなくなってしまいかもしれない。迷った……。心の中の天使が「やめなさい!」。一方で悪魔がささやく「早く上に行くには必要なことだ」。私は悪魔に魂を売ってしまった。強面を真似してZIPPOで炙り、鼻を近づける……。

だいぞー
学生時代に多くの外国を訪問。特にオーストラリアとネパールには並々ならぬ思い入れを持つ。海外での経験を重ねるごとに日本を顧みる機会を得て、約9年前に香木に出会い、一生の友とすることを誓う。その友を知ってほしく日々紹介するものの、伽羅以外を受け付けない妻に孤軍奮闘中。いつの日か好きな香木と香りを通じて知り合った仲間と一緒に、純粋に香木を楽しめる空間を持つことが夢。「香りで繋がりたい」と心底願っている、語学教育総合企業に勤務する35歳。

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