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「だから農業は楽しい」。自身の代から専業農家としてキャベツ生産に取り組む、東近江市たなかふぁ〜む 田中さん

石井食品は、「農と食卓をつなぎ子育てを応援する企業に」を掲げ、地域と旬にこだわりながら、食の領域で生産者と生活者をつなげる活動を進めています。

今回ご紹介するのは、滋賀県の琵琶湖の東岸に位置する東近江市で採れるキャベツ、そしてそのキャベツを使ったハンバーグのお話です。この時期の定番となりつつあるのは「滋賀東近江のキャベツを使った ハンバーグ甘辛みそソース」。あまりにも甘いキャベツでソースの味が決まらない、という驚きからはじまった東近江のキャベツの取り組みも今年で3年目となりました。農家さんと相談しながら進めた試作の回数は、なんと50回以上!

このnoteでは、このハンバーグに使用するキャベツを生産してくださっている、たなかふぁ~むの田中久景さんにお話を伺いました。

たなかふぁ~む 田中久景さん

兼業農家の家に生まれ自身の代から専業に

— 田中さんはどのような経緯でキャベツを作るようになられたのでしょうか。
12年ほど前から農業に従事しはじめました。元々実家が兼業農家をしていて、父は仕事をしながら自分たちが食べる分だけのお米を生産するような生活をしていました。私自身は、米よりも他の農作物の生産に興味があったので、米を作っていない期間にキャベツとブロッコリーを作るようなスタイルで農業をしていましたね。

最初の3年くらいはこんな流れで農業をしていたのですが、4年目からは「全部私がやる!」と決意し、作付面積も広げ、専業農家になることにしました。専業になってからは、時期被りが理由で難しいキャベツとブロッコリーの両立をやめ、キャベツに特化。現在、キャベツの畑は2.5ヘクタールにまでなりました。

— 東近江地域は、昔からキャベツ生産が盛んだったのでしょうか?

この地域は昔から水田が多い地域で、農協からも米・麦・豆(大豆)を生産する「二年で三作」という農業のスタイルが推奨されていました。しかし昨今、米価格が下落してきた影響により、農協が助成金などのサポートを行いキャベツ生産を推進してきた背景があります。また近くにも「大中(だいなか)」というキャベツ生産が盛んな農業地域があり、土壌としても合っていることがわかっていたのも要因です。

— 兼業のご家庭から専業農家に切り替えるという例はあまり聞いたことがありませんでした。ご家族はどのような反応だったのでしょうか。

本当は兼業の方が家族も安心したかもしれませんね。実は私、社会人を経験してから専門学校で学び直し、農業とは関係ない会計・税務について学んでいた時期があるんです。どの道に進むか悩んでいたのですが、3年間学業に向き合い日商簿記の1級まで取得した結果、自分が向いているのは農業だと気づいたというところでしょうか。

味へのこだわりは不要?しかし、どうせ作るなら良いキャベツを

— キャベツ生産に本腰を入れてから、農家としては順調でしたか?

それが大変で。専業農家として進み始めた際に、農協とも相談し、企業に卸す業務用のキャベツの作付面積を広げてみたんです。しかし、一切の事前知識なく飛び込んだ農業の世界。1年目は作ってみても、納得いくレベルのキャベツにはなかなかならないことを学びました。毎年秋ごろから生産が始まるのですが、年を越して4月頃、「やっと収穫・出荷できるぞ!」と喜んでいるところに、季節外れの雹(ひょう)が降ってきて、キャベツの玉が割れてしまうという事件が起きました。畑も真っ白になって…。

1年目に全く売り上げが立たない訳にはいかないだろうということで、農協さんに何とか引き取り先を見つけてもらって乗り切りました。

— そこから業務用、基本的には加工される前提のキャベツの生産に従事されてきたということですが、複雑な思いを持ったこともあるとのことで…。

業務用の野菜って、味へのこだわりは必要ないと言われてきたんです。加工の途中で消毒液につけてしまうため味が飛んでしまいます。引き取ってくれた企業の方には「おいしい」とは言ってもらえるものの、キャベツ自体に個性的な味やこだわりを出しすぎてしまうと、例えばサラダの場合、ドレッシングをかけることを前提とした均一の味を出すことが求められるんです。
でも、農業に従事するものとしては「どうせつくるならおいしいものにしたい」という思いがあります。よりおいしいキャベツを選別する努力をしています。

— 石井食品は加熱の工程もあるため消毒液につける必要はなく、芯まで丸ごと使うことにこだわっています。初めて田中さんにお会いした時に「芯まで甘い」と教えてくれたことが印象的だったのです。

石井食品は、素材の味を活かそうとしてくれているのがわかります。業務用のキャベツの場合、普通は芯が短いキャベツのほうが喜ばれるんです。サラダに使える部分が増えますからね。しかし、石井食品は芯も使い、芯の甘さを活かした味付けをしてくれています。
欲を言うと、今の東近江きゃべつハンバーグはご飯にも合う濃いめの味付けです。保存期間などにも影響するとのことなので簡単ではないと思いますが、より素材の味が活き「東近江キャベツの味だ」と言うことがわかるような味付けになると嬉しいですね。

農業を魅力ある職業に

— 12年間農業に携わってみて、田中さん自身が変わったことはありますか?

私は料理をしないので、これまで地元の野菜に注目したことがなく、「地産地消」なんて言葉とは無縁でした。でもこの仕事をし始めて、地元の直売所に自分の野菜を持ち込むと、他にも地場の良い野菜が出ていることに気づき、他の人にも気づいて欲しいと思うようになりました。もっと地元のものを地元の方に上手にアピールする方法はないかと考えるようになりました。石井食品のハンバーグの取り組みは、地元のスーパーで大々的に取り扱ってくれますし、「東近江」という地名も大きく記載してくれています。農家としてこのような売り方をしてもらえることは大変嬉しいです。このような活動を通して「東近江のキャベツって美味しい」ということに気づいて欲しいです。

— 他にも地元の皆さんに広める活動を始めたと聞いています。

地元の子どもたちにも知ってもらえるよう努力しています。農業自体を子どもたちに伝え、日本全国どこでも課題とされている農業の後継者不足にもアプローチしていきたいです。せっかく素晴らしい土壌があるこの東近江という地域を守っていかねばならないという使命感を持っています。
一度だけ地元の小学校5年生に向けて授業をさせてもらったことがあるのですが、これからも農業の魅力を伝える仕事は続けていきたいです。

— 今年の生産状況はいかがでしょうか?

今年は暖冬で「琵琶湖が干上がるのではないか」と言われるほどの年でした。定植の時期は大変暑く、雨は少なく、最初はうまく育たず廃棄になったものもありました。大量の水をスプリンクラーで巻き続けるという普段はしない仕事も出て苦労しましたね。
今年は虫も多く、極力農薬を使わないために、タイミングを見計らうことにも苦労しました。

これからは雪も降る東近江の地域。雪が積もって寒くなれば、自身が凍らないようキャベツに糖分が溜め込まれ、よりおいしくなります。2月くらいに収穫されるキャベツが一番甘くなると思います。
雪の下で育つキャベツは、長く雪の下に置けばそれだけ甘くなりますが、置きすぎても割れてしまいます。このタイミングを見極めながら、溶けかけの雪を掘りながら収穫するのも私たちの仕事です。


同じ年はやってこない。だから農業は楽しい

— キャベツ生産に適している土地とはいえ、大変な作業ですね。毎年同じ手段が通用するわけではなさそうです。

年々、地球温暖化の影響もあり、生育が早まっています。私の農作物については、時期こそ早まっているものの出来は良いです。例年より玉は大きく育ちますが、生育が前進しすぎた時にどのようにコントロールするかはまだ研究の余地がありそうです。これまでは4月の上旬まで収穫できていたものが、できなくなってしまい石井食品を通じて手に取ってくださる方に影響がないようにしないといけないと考えています。
収穫が早まったことを喜ぶだけではなく、コントロールし収穫時期を延ばせるようにキャベツと相談しているところです。
農業は去年と同じ作り方をしても、次の年に同じものができるとは限らないんです。全く同じ気候はやってこないので、毎年が試作の繰り返しです。だから失敗することもあります。うまくいく保証はなく、その繰り返しですが、そこが飽きないポイントなんです。だから農業は楽しい。近隣で菊の生産をしている一回り上の先輩も「まだ失敗する」と教えてくれたのが印象的で、私も毎年努力しようと心がけています。正解がない世界ですが、これが楽しいんですよ。

— 田中さん、ありがとうございました!

編集後記:大阪営業所 行政翔平

石井食品 大阪営業所 行政翔平

大阪営業所としては、石井食品の地域と旬の取り組みの中でも商品が手薄になりやすい冬の期間においしい素材を探していました。石井食品には「素材価値開発部」という素晴らしい農作物などを発掘するチームがあり、そのメンバーで探していくうちに、「東近江においしいキャベツがあるらしい」という有力な情報を得ました。

おいしいキャベツに出会えたこともよかったことなのですが、何よりも大事なことは田中さんに出会えたということです。こんなに情熱を持ってキャベツの生産に取り組まれている方との出会いは石井食品にとっての財産です。田中さんのような熱い思いを持った方とお仕事をさせていただけることに、改めて感謝しています。

今、学校給食へ採用してもらえるよう多方面に働きかけています。実現できるよう尽力します!

滋賀東近江のキャベツを使った ハンバーグ甘辛みそソース

昨年ご購入いただいたお客様から「キャベツが硬く感じる」「1回目に買った際より、ソースの色や味が薄く感じる」とのお声をいただくことがありました。 これは、季節が進むにつれ、暖かい時期のキャベツを使用することになり、芯や葉が硬くなったり、キャベツの水分量が多くなることが原因でした。収穫時期によっても変わるのですね。そこで、より旬の時期のキャベツを仕入れ、柔らかいキャベツの食感と、安定した味わいを実現しています。

キャベツは30mmの大きめにカットにすることで、シャキシャキ食感を残しています。また、甘みが強いキャベツの芯まで丸ごと使用し、さらにキャベツを炒める工程を加えることで、より一層うまみを引き出しました。

東近江の農家さんとのタッグで出来上がった自信の逸品をぜひご賞味ください。