見出し画像

【読書】2023年8月に読んだ本

長く私の音楽趣味を支えてきた真空管CDプレーヤーAH! Njoe Tjoeb 4000を手放すことにしました。2006年に新品10万円で購入し早17年。今年CDも手放しますし、本機とも残念ですがここでお別れです。

解像度高い野太い中低音に特長がある本機ですが、OPアンプをOPA627BPに交換し真空管をGolden Lion E88CCに交換して、より暗騒音が減った感じがあり、静謐さをも演出するようになりました。音質には何の不満もありません。

市内のリユース業者に売ったところ1.4万円くらいで売れました。17年前の装置に10%以上の価値が残っているなんて、ありがたいですね。

今月は以下の本を読みました。


加藤陽子、鴻巣友季子、上間陽子、上野千鶴子『別冊 NHK 100分de名著 フェミニズム』(NHK出版)

一度読んで2週間後に読み返していたら、上間陽子がとり上げたハーマン『心的外傷と回復』のパートで、エリクソンの「基礎的信頼システム」を紹介している箇所(p100)に付箋を貼っていたことに気が付きました。たぶん、これは会社における人材育成の場面でも参考にできる、と思って付箋貼っていると思うのですが、『心的外傷と回復』の紹介文からビジネスパーソン的教訓を誤って読み込んでしまうとは、自身の読み手としての質の低さにがっかりです。

同パートの「性被害を見える化したフェミニズム」(p97)から、フェミニズムの機能のひとつに、人間の尊厳や差別に関する発見法的機能があるのだと理解しました。

私は長いこと─20年くらい─ミサンドリーとフェミニズムの区別がつかず、どう扱ってよいのか分からずに生きてきてしまいました。この上間パートにて、この概念は単に、人間のジェンダーに関する処遇を事実として伝達するために使用されるものなのだと知り、ようやく「フェミニズム」のフラットな取り扱い方を知ることができました。

私はいままで常に清廉潔白だったと言えませんし、過去一度も差別をしなかったとは言えません。マジョリティ男性であることを自覚しながら、よりよい社会の実現のために、まっとうに影響力を行使していきたいと思います。


林智裕『「正しさ」の商人 ─情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)

特に2011年の東日本大震災における福島原発の放射能漏えい問題に照準し、「正しい情報」として流通した主義信条がもたらす二次被害(情報災害)について説明しています。著者は福島県に縁ある方で、この12年間に体験した情報災害の成り立ちを(義憤の色濃く)説いています。

またファクトチェック(p159~)を通して、「正しい情報」と呼ばれたもののの多くが、被災地を差別する国内他地域の選民思想に支えられていたり(p84)、各国の政治カードに変質した虚偽情報に過ぎなかったり(p110)など、情報災害の実体とメカニズムを解き明かそうとしています。著者は情報災害が温存されてしまう原因を「信頼性を担保する存在の不足」と「救いの多様化」に求めています(p272)。

このあたり読みながら社会的性格(フロム)のことを想像してしまいました。自身の読み手としての質の低さにがっかりです。


城塚登『社会思想史講義』(ちくま学芸文庫)

近代化を担った人びとが生み出してきた社会思想を、時系列を追って社会思想各々の関連性を描きながら平易に説いています。特に、オーウェン主義からフォイエルバッハ、マルクスの共産主義思想、修正主義、そしてレーニン主義に至る経緯が勉強できて大変よかったです。

本書には社会主義に同情的な書き振りが多く見られますが、『文化と社会』(レイモンド・ウィリアムズ)もそんな感じなので、社会主義を頼ると社会思想史を説明しやすくなる、という著者側の事情なのかもしれません。学史の説明の困難さを感じました。

また、このような通史に登場するヘーゲルの概説(p102)は毎度見ものだと思っています。ヘーゲル一度も読んだことありませんが、なにやらひときわ難しいとだけ聞いていて、入門書ごとに異なるヘーゲル概説文を見るたび、「ヘーゲル本当にこんな簡単なこと言ってるの?」と毎度不思議に思います。

「入門書におけるヘーゲルの主張とされるものの諸相」とかで論文書けるんじゃないでしょうか(もうすでに存在するのかもしれません)。学史の受容に関する通史って、ますます難しそうですね。

フェミニズムは、誰もがこの「学史の受容に関する通史」を語りたがるという点に特徴があるような気がしています。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?