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屋久島は森と雨の国

はや年末! 今週は屋久島旅行でした。

12/16(月) 晴れ
昨夜は神田でおでん。丸くてやわらかな重さのあるおでんだった。存在を強気に主張するのではなく、生まれた時からそこが自分の居場所と知っている、そんなおでんに見えた。幸福なおでんだ。おでんも人間も、居場所を自然に知っていることは幸福である。

大根、コロッケ、いわしのつみれ

大衆酒場の壁には新日本プロレスの広告を模した絵が書いてあった。アントニオ猪木が「アントニオーニ猪木」になっていた。唐突なイタリア人感。相方は友人の展示を見にいった帰りだった。引き換え、ぼくは先週の風邪の残香でぼうっとした一日を送ってしまった。でも「どんな日だった?」と聞かれた答えが「丸いおでんを食べた日だった」であれば、それは良い日であったということですよね。


12/17(火) 晴れ
荷造りをした。明日から会社の研修旅行だ。この時期に行くのは、年の半分は海外出張に出る仕事で、社員が日本でそろうのが年末と(テロのリスクが高まり帰国が推奨される)イースターくらいだから。以前美容師さんにそう話したら、美容業界の社員旅行は二月が多いと教えてくれた。年末年始や成人式のラッシュがひと息ついて、新年度の繁忙期にも間がある時期なのだそうだ。いろんな業界の旅行時期が気になるが、社員旅行自体が今はレアだろう。

今年の旅先は屋久島。本は何を持っていくか迷って、鶴見俊輔さんを選んだ。鶴見さんの文章は、鶴見さんの視点より、当時日本で起きていた差別や社会問題の苛烈さに重心がある。そして今起きていることをぼくらに考えさせる。12月3日、韓国ではユン大統領が戒厳令を宣言した(現在は弾劾訴追案が可決)。12月8日、シリアではアサド政権が倒れた。ガザやウクライナでは人道危機が続く。ぼくは大衆酒場で(またである)美味しくないグミみたいな鶏の軟骨を食べた。その距離を鶴見さんは透き通った目で見ている。

ベトナムで、十代の尼さんが焼身自殺をしている時に、天下泰平の日本では、五円、十円とあつめてアメリカに反戦広告を出そうとしている。その両者のくみあわせの奇妙さを恐れずに進めるところに今日の平和運動があるのだ。

鶴見俊輔. 身ぶりとしての抵抗. 河出文庫. 2012. p.191.



12/18-20(水-金) 曇り
屋久島を歩いた。
屋久島は森と雨の国だった。中央部は険しい山地。人は海岸部に散らばって住んでいる。海岸部は亜熱帯だが、中央部の山地を登るにつれて気温が下がり、温帯から冷帯へ変わっていく。あとは降水量! 屋久島の山岳部の年間降水量は年10,000ミリを越える。東京の6倍以上だ。

水の流れ

屋久島といえば屋久杉だけれど、屋久杉という品種はなく、屋久島の標高500mを超える山地に自生しているスギを指すそうだ。樹齢数千年の屋久杉も、数年で伐採されて建材になるスギも同じ品種。ではなぜ屋久杉はあれほど大きく長生きなのかというと、そこには屋久島の自然条件が深く関わっている。

屋久島の土質は栄養のない花崗岩だ。花崗岩はスギの成長を遅らせるが、豊富な降雨はスギを生きながらえさせる。この組み合わせのために屋久島のスギはゆっくり成長し、長生きするのだと言う。トレッキングした道には樹齢1,000年を越えるスギが何本もあった。今ある屋久杉はすべて江戸時代から近代にかけて進められた伐採の生き残りだ。当時はどんなに大きな木も伐採していた。

複雑に絡み合った木の根

木は倒れる。今夏の台風では、弥生杉と呼ばれる大樹が倒れてしまった。何千年も生きたスギが倒れるのはそれだけで胸を打たれることだ。でも、倒れたスギの幹からは芽が出て、百年もすると新しいスギが立つ。倒木更新と呼ばれる現象だ。数百年数千年の単位で見れば、すべてはめぐる、めくるめく命の更新。一瞬の光のスナップショットだ。




どれだけゆっくり伸びていけるだろう。どれほど速く為すかだけではなく、どれほど遅く歩けるかも同じくらい大事なことなのではないか。そんなことを思った。

高く伸びる屋久杉




12/21(土) 晴れ
朝、歯医者からの帰りに祖父へ電話をした。屋久島に行ったと話したら、大分前に一度訪れたことがあると教えてくれた。九州を夫婦で回った時、もともと予定はなかったのだが、ふらりと誘われるまま、車を置いてフェリーに乗ったそうだ。素敵な旅である。ぼくもそんな旅がしたい。長さも目的も決めずに、行ったことのない場所に出かけたいな。



12/22(日) 晴れ
屋久島旅行の落ち穂拾い。屋久杉自然館の蔵書コーナーで見つけた詩。

かわいい

一行足してみたよ。

読まれなかった手紙を抱いて
こがめは海にかえります
本は本棚に返してね

今年もあと十日になりました。皆さん、健やかによい一日を!

(おわり)

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