見出し画像

欧米のビジネスマンには理解不能、「なぜ日本人は達成不可能な目標設定を受け入れるの?」

あなたの会社では、上司と部下の間で、こんな会話が繰り広げられることがありませんか?

<部下(課長)> 部長、今期はおかげさまで、わが営業課の新規顧客獲得数は目標2,500人を上回り、2,600人となる見通しです。これも部長のご支援の賜物です。ありがとうございました。
さて、今日は、来期の目標を提案させていただきます。ご説明しますので、ご承認をお願いします。

<部長> あー、それは良かったね。おめでとう。私の支援なんてとんでもない。キミとキミの課員たちのがんばりの結果だよ。ところで、来期は大きく飛躍する年にしたいね。社長の期待もおおきいんだよ。
では、来期の目標を聞かせてもらおうか。

<課長> はい、来期は、新規顧客獲得数の目標を3,000人と設定することを提案いたします。今年度の実から10%以上増加となる目標です。この目標を達成するための具体的な施策としましては・・・

<部長> キミ、ちょ、ちょっと待ってよ。さっき、今年は飛躍の年にしたいといっただろう。10%増を飛躍と言えると思うか?思い切って今期の倍増の5,200人を目標にしようよ。
それから、たしかキミの課は既納客の定着率が低かったよね?

<課長> (汗)えーっと、定着率は、63%です。これにはいろいろ理由がありまして・・・

<部長> 言い訳なんか聞きたくないよ! 
とにかく定着率を上げないと新規顧客を増やしても相殺されちゃうからね。よし、来期は定着率の目標を100%にしよう。一度契約したお客さんは
一人も逃がさないんだ。いいね、頑張ろうよ。

<課長> (汗)、ぶ、部長、お言葉ですが、100%はちょっと非現実的だと思います。せめて70%とさせていただけませんか?

<部長> だからキミはだめなんだ。目標は高く設定して、その目標に向かってがむしゃらに努力するんだよ。よし、これで決まりだ。新規顧客獲得数は5,200人、そして既納客定着率は100%。この目標にしよう!決まりだ。頑張ろうじゃないか。チャレンジしようよ。私も応援するよ!いいね?

<課長>は、はい。わ、わかりました。(大汗)


こうして、無理やり非現実的な目標を押し付けられる。しかも、事業の状況が厳しい時ほど、起こりやすい会話だ。
日本人は、非現実的であっても、とにかく高い目標を設定することで、
チャレンジだー!」などと威勢の良い掛け声を張り上げ、「一体感」や「高揚感」を醸し出そうとする
最終的にその高い目標が達成されなかったとしても、担当課長のボーナスは必ずしも下がったりしない。なぜなら、日本での勤務評定の評価は、MBO(目標管理)ではなく、ビヘイビア(勤務態度)が中心だからだ。つまり、その高い目標に向かって、どのような努力や工夫をしたか、そのプロセスを評価するのが日本式。目標達成度はあまり重視されない。だからこそ、課長も達成不可能な目標を受け入れる。
努力している姿を「報・連・相」を通じて、部長にアピールすればよいだけだから。

(「報・連・相」や「MBO」については、
「報・連・相、できないヤツはダメ社員?」を読んでください)
https://note.com/dinokoba/n/n188f4d2c5757?magazine_key=m340328996128

この部長は、自分の管轄している海外の子会社の現地責任者に対しても、同じように達成が難しい高い目標を設定しようとする。ところが、ローカル人材を現地責任者(現地法人社長)に登用している場合、なかなか部長の思うようにはいかない。

達成が難しいこのような高い目標のことを、「ストレッチ ゴール:stretch goal」と呼ぶ。
ローカル社長は、ストレッチゴールは受け入れない。なぜなら、欧米では設定された目標を達成できなかった場合は、ボーナスが下がる、給料が上がらない、ときには解雇されることもある、というのが一般的だ。現実的で達成可能な目標値しか受け入れない。

つまり、ローカル社長は、日本の部長の意向を拒絶することになる。日本の部長は、「あいつはオレの言うことを聞かない」と不満を募らせる。ローカル責任者は、そんなことはまったく意に介さない。彼にとって大事なことは達成可能な目標を設定することだ。

日本人たちの、「みんなで一緒に高い目標に向かってがんばろう」的な
「一体感」や「高揚感」にはまったく与(くみ)しない。

仲間意識を重視する日本人と、個人のパフォーマンスを重視する欧米人の
すれ違いの典型的な一幕である。

日本と海外各国では、文化やビジネス習慣が異なることが多い。ところが日本人はそれらを無視して、あるいは違いに気が付かずに、日本での成功体験に基づいてマネジメントしようとしてしまう。
しかし、それではなかなかうまくいかない。

これがお互いのストレスの原因になる。そして、次第に信頼関係すら失っていく。
最終的には、「やはり現地法人の社長は日本人でなければダメだな」なんてことになっていき、ローカル社長の側からすると、「日本人はクレージーだ。論理が破綻している。私はついていけない。」と言って、会社を去ることになる。

こういうすれ違いが世界のあちこちで起きている。

今、世界でビジネスマンに求められているのは、
高い「IQ (Intelligence Quotient):知能指数」よりも
高い「CQ (Cultural Intelligence Quotient)」と言われ始めている。これは、「多様性に適応する知能指数」のことである。

外国人と仕事をするには、相手の文化や習慣を理解し、尊重しようとする感性をもっていることがとても重要であると、ビジネスの世界では気が付き始めている。   

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?