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「不遜を許される才」

「不遜許される才」
めちゃくちゃかっこいいフレーズだ。

これが何なのかと言うと、格闘ゲームプレイヤー、「ヌキ」さんこと大貫晋也に対して使われる称賛の言葉。まだ「プロゲーマー」という言葉がない時代から、天才格ゲープレイヤーとして崇められた彼の二つ名。

今日は彼について語りたいと思う。


センス1つで勝ち上がってきた男

その前に、ヌキが有名になっていった当時の格ゲーシーンについて簡単に概説を。

彼が活躍したのは90年代末期。
『ストリートファイターⅡ』のリリースをキッカケに、全国的な格ゲーブームが起き、日本中の若者が格ゲーをプレイしていた時代だ。今では信じられないが、そんな時代もあったのだ。

現代風に言うなら、スマブラに近いか。ガチでやっていたかは別として、みんな一度はプレイしているゲーム。格ゲーはそんなゲームだったのだ。


つまるところ、とんでもないプレイヤー人口だった格ゲー界隈。
そんな中、彗星のごとく現れ、当時最新作の『ストリートファイターZERO2』の全国大会で優勝する男、それが「ヌキ」だ。

しかし、全国大会で優勝するような実力を持っていても、彼は全力でやっていたわけではない。
特に努力らしい努力はせず、センス1つで全国大会を勝ち上がったわけだ。

彼の「不遜を許される才」はここからも始まっている。
もちろん、「プロ」という職業への道がない当時の格ゲーシーンなんて、本気でやり込んでいるヤツのほうが少ない、そんな雰囲気だったとは思う。
でも、それはヌキにとっても同じ。更に言うと、当時の人口で言えば相当競争は激しかったはず。

そんな中で、センス1つで勝ち上がる彼はやはり異常だと思う。


そんな、「格ゲーなんてチョロい」と舐め腐ってもおかしくないヌキの前に一人の男が現れる。

この男が、彼の人生も変えるし、この2人の存在が、その後の格ゲーシーンを、大げさに言えば、日本のプロゲームシーンを変えたと思う。


「ウメハラ」という男

インターネットを少しでも触っていたら、耳にはしたことはあると思う。
「ウメハラ」こと「梅原大吾」。
なんか格ゲーが凄い人、「ウメハラがぁ!」の人(これはインターネット・ミームによる汚染だが)くらいの印象だろうか。

彼は、日本人でプロゲーマーになった人物がほぼ居ない中で「プロゲーマー」になった人物であり、最も長く賞金を稼ぎ続けているプロゲーマーとしてギネス登録されている人物である。
何よりもその圧倒的な強さとプレイスタイルで、格ゲーの「神」とまで呼ばれるような、格ゲー界では生き仏的な存在。

なんでそんな心酔する人が多いかというと、彼の考え方とかが素直にカッコイイから。彼が著した『勝ち続ける意志力』はベストセラーにもなった。

普通にためになる、読んでいて面白い本だからぜひ読んで欲しい。
ウメハラについて語っていくとそれだけで4000文字超えるからこの辺にしときます。


そんなウメハラとヌキは出会う。
まだウメハラも高校生くらいで、知っている人は知っている、くらいの知名度。そんな彼とヌキは出会い、戦い、そして敗北する。
初めて、自分が全力で戦っても勝てない相手に出会う。

そこで、はじめてヌキは格ゲーに対して向き合い始め、本気で打ち込むことになる。


ウメハラか、ヌキか。

ここからこの2人の時代が始まっていく。これは誇張なしでこう言えると思う。

なぜなら、2人ともお互い以外には誰にも負けないから。当時の2人がガチでやったゲームの全国大会ではウメハラかヌキ以外が優勝することはなかった。
必ず決勝で2人がぶつかる。
ヌキが3位だったりもする大会もあるが、それは準決勝でウメハラとあたってしまっているから。

本当にこの2人の強さは圧倒的で、他者を寄せ付けない強さだったのだろう。戦績がそれを物語っている。「ウメヌキ」と言われる2人の組み合わせは、当時の格ゲーシーンを大いに盛り上げた。


圧倒的なセンスと反射神経で攻め続けるヌキと、それを驚異のやり込みでいなし、潰すウメハラ。当時の2人の戦いを生で見れた人は幸せだったろうなぁ…


「俺ユン倒すから、大貫他全部」

そんなレジェンド2人が、チームを組んで大会に出たことがある。
当時の最大の格ゲー大会、闘劇。その「ストリートファイター3rd」部門にて、2人が組むことになった。

あまりウメハラはこのゲームが好きでなく、ガチでやるつもりはなかった。
そんな中、自分が唯一認めたライバル、ヌキから声をかけられて、「お前が言うなら…」といった感じで出場を決めたそうだ。

お互い、どういう風に練習しようか、となった時に、ウメハラが言い放ったのが、このセリフ。
「俺ユン倒すから、大貫他全部」

ユンというのは、当時の強いとされていたキャラ。つまるところ、「自分はユンだけは絶対倒せるようにするから、ヌキが他のキャラは全員倒せ」ということ。
この2人の奇妙な信頼関係と、圧倒的な強さへの自身が分かるのが、このセリフ。


そして、これを有言実行するのがこの2人。
この大会は2人でチームを組んで、相手のチームと勝ち抜き戦を行う。先鋒はヌキ。
つまり、ヌキが全勝すれば、ウメハラの出番はない。

ヌキは決勝戦まで、全勝し、ウメハラが戦うことはなかった。圧倒的な強さ。
そして、決勝戦。初戦はユン以外のキャラ、それにはヌキが勝利。
しかし、大将のユン使いにヌキは破れる。

ヌキが敗れたユンにようやくウメハラの出番。この大会で、ウメハラはきっちり「ユンだけ」に勝利して、2人は優勝を勝ち取る。

かっこよすぎる…
お互いの信頼と、それに当然のように応える2人の関係、エモい。


天才はいる、悔しいが

そんなヌキさんだが、彼は現在プロゲーマーとして格ゲーシーンの第一線にいるわけではない。

一度はプロになったものの、ゲームとの相性や、彼が好きだったゲーセンでコミュニティの終焉によるモチベ低下で、プロを辞退。
プロを辞退した後しばらくは、「昔はすごかったオジサン」になっていた。


そんな彼だが、やはり格ゲーに対しては天才ということを表すエピソードがある。

それは、ウメハラ主催の「獣道」というイベントでの勝利だ。
これは、因縁のあるプレイヤー同士を、10本先取で勝利という長期戦で戦わせるというもの。
通常の大会と異なり、誰と戦うか、というのが分かっている状態で準備期間があるので、お互い「アイツだけを倒す」という万全の対策をして当日を迎えるわけだ。

そんな、ある意味真の実力が試されるイベントに、ヌキが呼ばれた。
ゲームタイトルは当時ウメハラとタッグを組んだ「ストリートファイター3rd」。相手は、引退することなく、3rdをプレイし続けていた当時最強プレイヤー「弟子犬」。

このクソカッコイイPVを見てほしい。


結果は、ヌキの勝利。
しかも、そのプレイ内容は、主催者のウメハラに
「もうこのゲームで獣道はやらない。ヌキが最強なことが分かったから。」
と言わせるほど。

「伝説は本当だった」というのを実感させる試合だったわけである。
「不遜を許される才」が本気を出したら、誰にも勝てないということを証明した。今後の企画を潰されたウメハラは悔しそうだったが、どこか嬉しそうでもあった。


この試合を見るたびに、「天才はいる、悔しいが」というキャッチコピーを思い出す。
※元ネタはJRAが作ったCMで、「トウカイテイオー」という馬につけられたコピー

どんなにオモシロおじさん枠にヌキさんがなったとしても、昔の自慢話をされても、こういう結果を見せつけられると黙るしかない。
まさに「不遜を許す」しかなくなってしまう。


漫画でも彼の活躍が読めます。

このヌキの若かりし頃の活躍は、実は漫画化されている。
https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000032/episode/615/

本当は主人公がウメハラの漫画なのだが、2巻まではヌキが主役。
最大のライバルとして、ウメハラが描かれる。これもめっちゃ熱い物語なので、ぜひ読んでください。


思ったより長文になってしまった…
なんで急にヌキさんの話をしたかというと、このPVを見たから。

おじリーグという、おじさん格ゲーマーたちを集めた大会に、ヌキさんが参戦するというPV。
ギャグを入れつつ、オシャレに仕上げてるのが凄い。
ヌキさんのキャラを良い感じにあらわしていると思う。

以上、大貫晋也という男について語らせていただきました!

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