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【ライブレポ】84歳のスネアと、熱いハーモニカ【バーナード・パーディ】

昨日、バーナード・パーディというドラマーのライブに行ってきた。JBやアレサ・フランクリンなどのソウル・ファンク系をはじめ、様々なジャンルで叩き続けた超一流ミュージシャンだ。

高校生のころにニコニコ動画で出会った彼のドラム講座を見てから、ずっとファンだった。一生に一度は生で聞きたいと思っていたのだが、御年84歳。さすがにもう日本に来ることはないだろうなと思っていた。この歳で極東の島国まで来て演奏してくれるなんて、感謝しかない。

17時半スタートの前半の部に参加したのだが、平日の夕方なのにも関わらず席はほぼ満席。若い人もいて、幅広い層がファンなことを実感した。そりゃそうだ、音楽を少しでもやっていたら、彼のドラムと名前を聞かない人生はないだろう。自分ごとのように嬉しくなった。


マジでそのまんまなスネア

日本人ピアニストに優しく介護されながら登場。その登場姿は、完全におじいちゃん。84歳らしい、老人の姿だった。そんな光景にきちんとドラムは叩けるのかと、一抹の不安を覚える。しかし、それは完全に杞憂だった。

1曲目、ボーカルのMCが終わり、カウントともにスタート。もう完全にスネアの音が当時のまんま。何の遜色もなかった。
84歳の老体からどうしてこんな音が出るのだろうか。音の切れ味がぜんぜん違う。

PA側がドラムを中心に音を出すように設定しているのもあるだろうが、それにしても、である。まぁたしかに、力でドラミングするような方法では、84歳までドラムを続けることは無理だろう。完全にリラックして、かるーく叩くような感じでエゲつない音を叩き出す。スネアの音だけで笑顔になれる。


そして、フレーズも変わらずだった。ブレイクやサビ前で入る、いわゆる「おかず」というヤツ。パーディの真骨頂はここだと思っている。フレーズとして超絶技巧では決して無い。シンプル。しかし、聴いていてすごく気持ちいい。

「こんな感じの音が欲しいな」と思っていることを期待以上のクオリティで常に表現してくれる。そんなふうに彼のプレイに対して思う。

よく、彼は演奏中に歌っている。声が出ちゃっているというか。お茶目な感じがして自分が大好きなところなのだが、ここに彼の素晴らしいプレイの原点がある気がする。きっと、彼なりに頭の中に楽曲に対してのメロディラインがあるのだろう。そしてそれをドラムで「歌わせて」いるだけなのかもしれない。だから、メロディを感じているオーディエンスが「コレコレ!」と思うフレーズが出てくるのかなと。

改めてその天才っぷりを感じたライブだった。ちょうどマンガ『BLUE GIANT EXPLORER』を読んでいるのだが、このワンシーンが頭に思い浮かんだ。本当に体の中にどっしりとリズムがあるんだろうなと思う。

『BLUE GIANT EXPLORER』 6巻より


何かを伝えようとする音か

パーディは最高だった。で、ドラム以外のバンドメンバー。当然みんなおじいちゃん。渋みのあるうまい演奏はしていた。彼と一緒に演奏をすることを許されたメンバーだ。中途半端な実力の人はいない。

でも、彼らの演奏を聞いていて思う。
「何かを伝えようと演奏しているヤツの音じゃないなぁ…」
と。PA側が明らかにベースとかギターの音を低めに設定していて、聞こえづらかったという、そもそもの話もあるかもしれないけども。


まぁ歳を考えると当たり前なのだが、このステージで何か自分を表現したい、という思いはないんだろうなと思う。えげつないドラムを叩き出すパーディに対して、逆らうこともなく、我を出すこともなく。粛々と演奏を続ける。

やっぱり音楽というのは表現で、自分の中にある「なにか」を訴えてほしいと自分は思う。すごいミュージシャンがいたら、そいつに負けてたまるか、と思って演奏してほしい。少なくとも、ソロパートはそれくらいの気概を持って演奏するべきだと思う。

現在進行系で読んでいるマンガ(ブルージャイアント)の影響を強く受けているのは否定できないけども。昔の音楽が好きだから、いろんな年老いたミュージシャンの演奏を聞くことがあるが、これはそのたびに強く思うのだ。もちろん、サラリと素晴らしい演奏をすること、激しい音楽にはないゆったりとした曲の良さもあるが、自分が強く魅了されるのはすべてをさらけ出した熱い音楽。


そういう意味では、今回のライブでパーディ以外で印象に残ったミュージシャンが一人いる。ボーカルの人の日本の知り合いということで、横浜のステージだけのスペシャルゲストとしてハーモニカ演奏者が登壇した。

「前日の東京公演の後、メッセージのやり取りをして、ゲストとして来てもらったんだ」的なことを言っていたから、完全に飛び入りだと思う。彼は1曲だけ、世界的なドラマーと初めての演奏をする機会を得た。

そんな彼の長尺のハーモニカソロは、こころにグッとくるものがあった。息の限界まで高音のロングトーンを出す彼の姿勢に自分は感動したし、そこにはこの限られた場で「自分を出して爪痕を残してやる」という気概を感じた。

それをグッと支えるパーディのドラムも最高だったし、その瞬間に音楽を一番感じた。パーディを見に来たライブだったけども、こういう出会いがあるからこそライブは、音楽は、いいなと思えるのだ。

最高の一夜のお礼を、パーディとハーモニカ吹きの彼に言いたい。あの瞬間こそ、ロックでありジャズであり、音楽だった。


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