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インタビュー調査のレポートってどうしてます?

皆さんは「インタビュー調査の報告」をどのようにまとめていますか?アンケート調査の結果報告であれば「グラフレポート」や「自由回答集」のような明確な成果物がイメージできますが、定性調査の場合はかなりバラツキがあります。

UXリサーチの場合は、そもそも報告書までは作らず、オンラインホワイトボードツール上でユーザーの発話情報を付箋データにまとめることが多く、共有方法もプロジェクトメンバーを前提とすることでツール内で問題ないでしょう。

マーケティングリサーチの場合は、グループインタビューの実施比率が上がり、その際は外部へ発注する機会が多いものの、費用との兼ね合いから報告書作成の発注は割愛して、発言録(議事録)を記録成果物とするケースが多い印象です。

このように、インタビュー業務がどちらかの領域で留まっている場合はそれほど支障はなく、それぞれの業務カルチャーの中で成果物(報告内容)が理解されていきます。進め方の認知負荷は少なく、分業体制の良いところでもあります。

ところが組織が大きくなると、これらの成果物は万能ではなくなります。具体的には、ホワイトボードツール(UX)では「どこに何があるか後追いしづらい」ことや、発言録(MR)では「実査2時間分の原文を見切れない」こと、など。

すなわち、プロジェクトの経過を共にしていないメンバー一般への共有や、ごく短時間で理解と判断を行う立場にある経営ボードへの報告などのシーンで、UXやMRのカルチャーを前提とする報告方法がかなり難しくなる場面が訪れます。

デザイン思考やスプリントを導入できない環境の中で、どのように60分1発勝負の報告会でファクトもインサイトも伝えることができるか?ーそもそも無理はありますが、個人的にはそこにチャレンジし続けるキャリアを過ごして来ました。

そこで今回は、リサーチの組織成熟度レベルは上がらないことを前提に、しかしその中でリサーチの活動をどうにかスケールさせたいと思っている方に向けて、インタビュー調査の報告書のドキュメンテーションの作り方を書いてみます。

インタビュー調査の分析・示唆はそもそも多様性に富んでいて、そのため成果物も一括りにはできない面もありますが、基本の分析成果物として「インタビュー個票」と「キーインサイト一覧表」を作成しておくと間違いがありません。


※本稿で紹介している成果物は特定のプロダクト事例(実際の調査結果)ではなく、内容は一般化しています(あくまで例示・サンプルとしてご覧ください)
※本文での「インサイト」の言葉の使い方について、顕在的なニーズも含めた広い解釈をしています(組織の成熟度レベルが低いケースを想定しているため)


●アウトプット①インタビュー個票(ファクトシート)

ユーザーインタビューの結果は、「インタビュー個票」としてインタビュイー(調査対象者)ごとにまとめます。発言録や付箋集の形状だとプロジェクトの終了と共に役目が終わってしまうため、N1分析の成果を未来まで残せるようファイリングしておきます。

個票は2枚組で構成し、1枚目は事実情報を集めた「ファクトシート」とします。BtoCサービスであれば、ファクトシートの構成は生活時間・情報収集・購入商品(利用内容)で記入欄を設けておくと、多岐にわたる発話情報を上手くまとめることができます。

いずれの情報も実査では意識して聴取していないと会話の中で流れていってしまうため、インタビューガイドでしっかりと項目を規定したり、時間が足りないのであれば事前アンケートを依頼するなどして、決めた箇所の情報は確実に網羅できるようにします。

よくインタビュー調査の失敗例には、依頼主や報告先から「この情報は知っていた」と指摘されてしまう現象が上がりますが、事実情報もこれだけまとまっていると意味を成し、「断片的には既知情報だが全体的には未知情報だった」という印象に変わります。

N1分析がきちんとできているとデプスインタビューの実施価値は上がり、ただ個々のユーザーの声を聞いているだけの業務という印象を払拭できます。また、調査対象者の基本情報も加えることで、ペルソナのスケルトン(骨格)データとして活用できます。


●アウトプット②インタビュー個票(マイルール)

2枚目は価値観・志向性にフォーカスした「マイルール」のページを作成します。これは発話情報の中でも価値観・志向性・判断軸に関連する部分をピックアップしたもので、図表をご覧のように7つくらいの話題に見出しをつけてキャッチーにしていきます。

個人に特有の内容(すなわちインタビュイーのマイルール)がこれだけ並ぶと、分析結果が充実していることを示すことができます。項目数は無理に7つ揃える必要はありませんが、情報が埋まらない場合、深掘りが浅いか実施人数が少ないかのどちらかです。

資料のレイアウト上は発話ベースで構成することがポイントで、インタビューの書き起こしデータから発話の原文を記載しつつ、リサーチ担当者の考察・示唆を併記していきます。前者を欠くと話の飛躍が生じやすくなり、後者を欠くと活用されなくなります。

バイアスを避ける観点から原文と考察を別々のデータとして保持するやり方もありますが、データが分かれてしまうと、原文データでは「意見を出しなさい」と、考察データでは「根拠を提示しなさい」と、依頼主・報告先に振り回されるリスクが高まります。

発話をマイルールのページにまとめるメリットはまだあります。資料内にあるカメラのマークは「インタビューの動画があります」という印であり、報告会の中でハイライト再生する場所を表します。この工夫で会議運営上も情報共有上もスムーズになります。


●アウトプット③キーインサイト一覧表

さて、N1分析の成果物としてはインタビュー個票があれば十分ですが、やはり調査報告では「セッションを通じて(重ねて)何が見えてきたのか?」という結果が問われます。人数が少数であっても集団としての傾向や示唆こそが真に望まれている情報です。

また、リサーチ担当者が線引きするつもりは無くても、「ここから私は何をすれば良いのか、それを示して欲しい」という意見もステークホルダーからは上がってきます。これはテーマが実態調査であろうが探索型であろうが、「答え」が渇望されます。

デザイン思考をインストールしているとこの流れは違うことは明らかなのですが、実際には相手にとって「知ったことではない」概念です。とはいえ、リサーチャーがすべて仮説や提案を決めてしまってよいのか、ということも私たちにとっては悩みどころ。

そこで、個票、特にマイルールの情報を通じて、「これはターゲットによく当てはまっている」という、価値観・志向性・判断軸に関連する情報を「キーインサイト一覧表」としてまとめます。私の場合、対象者4人分の情報から16個ほどを提示しています。

こうすることで、商品企画・マーケティング・プロダクト開発それぞれに対してヒントを提供することができ、項目選択の観点はリサーチャー自身の見識に基づきますが、しっかりと相手方の思考の余白を残した状態で討議段階まで貢献することができます。

なお、ここで言う「インサイト」は、潜在的なニーズだけでなく、一部にファクトや顕在的なニーズも含みます。組織の成熟度レベルが高ければガチのインサイトのみで構成することも考えられますが、そうでなければ解釈を広げて量をキープするのが吉です。


●あとがき

冒頭で触れたように、インタビュー調査の成果はアンケート調査と比べて成果物の観点からなかなか価値づけが難しい面があります。構造化度合いの強弱の差から、「やってみないとわからない」「最終的には出たとこ勝負」になるリスクはどうしても発生します。

調査手法を選択するうえでそうした前提がある中で、仮に「光る原石のようなインサイト」が発見できないとしても、丹念に対象者個人に特有の情報を追っていって資料上での見せ方を工夫すれば、ファクトやニーズの情報が8割でもそこそこ報告で勝負ができます。

デザインリサーチ、マーケティングリサーチ、どちらかの領域でやっていく分にはそこまで大きな課題感はないかもしれませんが、UX・MRのカルチャーを超えてリサーチを行う場合に何か参考になるところがあれば嬉しいです(私も引き続き改良を重ねます!)


●お知らせ

今月末にはインタビューの運営・報告の方法を解説するセミナーに出演します。この記事で取り上げた報告書の作成法はもちろん、企画や準備も含めてトータルで実務の流れをお話します。デプスインタビューの手法を例にするので、デザイン・マーケティングどちらの文脈でもご覧いただけます。これから力を入れていきたい方はぜひご視聴ください!

「ユーザーの解像度を上げる、インタビュー調査の実施と報告のコツ」
5/27月曜17時~  主催:株式会社ヴァリューズ


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菅原大介|リサーチャー
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