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クライアントワークが上手いリサーチディレクターの特徴

個人で企業向けのリサーチのメンター活動をしていると、「どこの調査会社・支援会社が良いのか?」をよく聞かれます。こういう時には案件の内容に応じて最適な候補を出すようにしていますが、薦めたくなる会社というのがあります。

それは単純に、人当たりがいいからとか難題に応えてくれるからということではなく、確固たる「クライアントワークが上手いリサーチディレクター」像というものがあります。そうした人とのプロジェクトはやはり上手く運ぶものです。

今回は過去のオリエンや支援会社とのやり取りを振り返って、「リサーチのクライアントワークが上手い人の特徴」をまとめます。事業会社では発注主として、支援会社では支援先とのコミュニケーションにおいて参考になれば幸いです。


※本稿ではUXリサーチ・マーケティングリサーチ・市場調査の種別を問わず、調査会社・支援会社という書き方でリサーチプロジェクトの支援企業を総称して表現します。

※リサーチディレクター:リサーチプロジェクトのリーダーを担当している人を指して言います。

※記事タイトルで「クライアントワーク」と書いていますが、ほぼそのまま受託・請負の業務にも当てはまる内容です。


●特徴①あえて調査会社に発注する意図を尋ねている

デキるリサーチディレクターは、商談や受注時の案件打合せの折に、「なぜこの仕事を調査会社・支援会社に依頼しようと思ったのか?」を尋ねています。ポイントは(発注先以前に)「そもそもの外部発注理由」を聞いていることです。

この質問はとても的を得ています。なぜならこの質問に依頼主が「経費をかける本当の意味合い」がよく現れるからです。ヒアリングの返答では、事業会社の内情によって、品質・スピード・リソースなど重視するポイントが出てきます。

逆に、「間に合わせの質問」がありません。案件の打合せでは、「調査目的は何ですか?」「御社のビジョンは何ですか?」という定番の質問がありますが、残念ながら時間を割いて話した情報以上には広がらないケースがほとんどです。

いちおう私も副業でメンターの依頼を受ける時にこの質問を必ずしています。それこそ調査会社がある中で個人に依頼するのは特異な状況です。経緯を知ると、リサーチ周り全般をまず上手く立ち上げたい、のような意図が聞かれます。


●特徴②担当者間にとっての仕事意義を確認している

デキるリサーチディレクターは、組織と個人それぞれのレベルにおいて発注・受注の意味合いを語っています。通常は①の質問のように「事業会社が発注する目的」のみが打合せで確認されるのですが、もう少し双方向性を帯びています。

・例:UXデザインの支援会社として、まだまだリサーチプロジェクトの経験量が少ないのでこの機会を活かしたい。
・例:マーケティングリサーチ会社として、新しい調査手法の分析基準を安定させたくてより実践経験を積みたい。

このように毎回、案件がもたらす成長につながる要素を言語化できているのが特徴です。仮に組織単位の動向ではなくても、個人単位でも学びを設定して手法の使いどころや課題を探索している場合、プロジェクトが熱量を帯びてきます。

その結果、単に「期日通りに実行して納品する」「目標とする売上達成につながる」だけではなくなり、盟友感が出てきます。もっとも、専門領域の学習範囲を自ら計画できる状態は双方ジュニアだとちょっと難しいかもしれませんが。


●特徴③成果物個々の品質レベルをすり合わせている

リサーチ業務は一般的には業務のスペック単位で受発注が行われます(請負→業務・納品物、準委任→期間・時間)。専門業務のアウトソースの意味合いが強いため、特に分析成果物の品質状態については納品時によく問題になります。

デキるリサーチディレクターは、成果物個々の品質レベルをすり合わせて業務全体のバランスを取っています。顧客内部でどの程度参照するか、どう活用するか、それによって、納品対象の成果物の最終品質に強弱をつけている印象です。

納品物トラブルを避ける常套句には「修正は2回まで」という握り方もあります。しかしこの方法は、顧客には有無を言わせずやり込める進め方になります。長期的な関係性を考えると悪手にもなり得るので、目安としておきたいものです。

私の場合は、定量・定性を問わず、成果物となる調査票やチャートは一回すべて下書きします。「発注とは?」という状態ですが笑、専門会社にはできるだけその先にパワーを使ってもらいたいという意図を持ってあえてそうしています。


●特徴④発注における内製範囲を緩衝地帯としている

デキるリサーチディレクターは、料金と稼働のバランスの取り方が上手です。「無理ですね」と顧客を諦めさせる前に、組織と自身のアセット(知識・技能)に照らして、中間のオプションが取れないか常に模索してくれます。

上手いなと思う対応は、クライアントが内製対応する作業範囲を適切に定めてそれを緩衝地帯とする方法です。例えば、アンケートの選択肢の用意、ユーザーテストの提示物の準備など、時間はかかる仕事で軽微なものは分担するなどです。

このようにして、「できる・できない」「間に合う・間に合わない」、の二分法を回避しています。もちろんこの進め方はクライアント側の対応品質が低いと成り立たないので(相対先の知識や技能の把握)、そこの見極めも重要です。

クライアントの予算上限に対する仕事要件は常にギリギリで設定されるものですが、それでこそ発注成果は最大化する面もあります。仕事の難易度と稼働の見積りを見極めて内製範囲を緩衝地帯とするのは、良い方法だと思います。


●特徴⑤発注が無い時期に意味のある雑談をしている

調査会社からの連絡と言えば、「直近の案件の有無はいかがでしょうか」「新サービスの案内をさせてください」という趣旨で面談を希望するケースが典型的です。私も逆の立場ではそうするかもですが笑、自社都合の連絡なんですよね…

こうしたローラー方式の連絡はタイミングありきなので「関係性を深める」という観点では向いていません。逆に、「何か宿題をください」型の営業も永遠に宿題を課す顧客がいるので良し悪しです。いずれも一方通行の連絡の末路です。

個人的に関係性が長続きしているのは、普通に業界や業務のことについて話せる担当ディレクターです。いわゆる「意味のある雑談」ができているという状態で、発注中のプロジェクトが無い時期だからこそフラットに話せる良さも出ます。

マーケティングリサーチ会社だと担当者変更が多いのでそもそもこれが難しいのですが、デザインリサーチ会社は組織の規模感が安定しているせいか、関係性を築きやすい印象があります(その代わり発注機会が限定的かも)


●あとがき

あらためて振り返ってみると、これらのポイントを総称して「信頼関係」と呼ぶのだと感じます。単に「期日対応できる」「予算対応できる」というだけではない、長期的な関係につながる要因です(会社が変わってもつながれる関係)


●お知らせ

7月にはアンケート業務のディレクションを解説するセミナーに出演します。この記事ではリサーチディレクターとしてのコミュニケーションスキルについてお伝えしてきましたが、より実務に寄り添った仕事のコツをお話します。

「一人目の担当者がすべきこと」というサブタイトルの通り、初心者向けの内容です。設計から報告まで一通りわかる構成でお話しますので、特に「本職ではないけれどリサーチを担当している」という方はぜひご視聴ください!

▼ ユーザーアンケート業務の始め方|一人目の担当者がすべきこと
7/8月曜17時~  主催:株式会社ヴァリューズ


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