ユーザーインタビューのモデレーターが上手い…!と思った瞬間
デザイン・マーケティングの領域を行き来してユーザーリサーチを担当していると、自分が行う以外にも様々な立場の人がインタビュアー(モデレーター)を務めるユーザーインタビュー(ユーザーテストも含む)に立ち会う機会があります。
そうすると、「この人、モデレーターが上手い…!」と思う瞬間が何度も訪れます。不思議と、必ずしもモデレーターとなる人の職種・役職・資格・経験歴に限らず上手いのです。例えば私は、幸運にも以下のような神回に遭遇しました。
・デプスインタビューの進行を相手の性格に合わせて調節できるUIデザイナーさん
・非構造型進行なのに結果的に構造化された報告ができるサービスデザイナーさん
・調査業界歴よりも複数業種の取材歴を武器に活躍するフリーのモデレーターさん
もちろん経験・実績は絶対にあった方が良いのですが、私自身は上記の皆さんのようなポータブルスキルを真似たい!といつも思っています。ということで、今回は「インタビュー調査のモデレーターのスキル」についてまとめてみます。
※この記事では、インタビュー調査の専門技能について論じるのではなく、リサーチャーに限らず一般の人が持ち得るポータブルスキルについて論じます。
※インタビューの協力者・被験者のことをインタビュアーに対するインタビュイーと記載しています。
●①アイスブレイクが全体の枕になっている
デプスインタビューに同席していて冒頭から期待感が高まるのは、インタビュアーのアイスブレイクが上手い時です。落語で噺の本題に入る前にネタと客層を結びつける枕話があるように、アイスブレイクが全体の枕になっているのです。
これは特別な高等テクニックというわけではありません。例えば、ペルソナの作成やターゲット層の理解が調査目的であれば、典型的な1日の流れを尋ね、その後本編に続く生活時間の話題について頭出しをしておくというようなことです。
まず冒頭で相手に話してもらう時間を作りつつ、それが本編とも関連しているので時間進行にまったく無駄がありません。最初の5~10分の時間の使い方は意外と後から取り戻せないインパクトを持つので教科書通りの進行は良し悪しです。
●②「N1」ならではの情報を引き出している
デプスインタビューの展開で感心するのは、インタビュイーならではの選択や判断の根拠を尋ねることにチャレンジしている展開です。特段エクストリームインタビューでなくても、個人に特有なN1情報をしっかり引き出しているのです。
これは「なぜですか」と理由を尋ねていれば良いということでもありません。私の経験上は、こだわり、具体的に工夫していること、成長のために努力していること、などに企画の立案や運営の改善に必要な情報が含まれている気がします。
逆に、発注経験者間でモデレーターの品質について話していて評判が悪いのは、「事実確認のみで満足している」「当たり障りのない話を総合的にしている」という状況です。まるで「よく知らない親戚との会話」のような進行なんですよね…
●③テーマに関連するファクトは鬼チェック
事業ドメインの理解を目的とするカテゴリー調査では、テーマに関連するファクト情報は調査成果そのものになります。例えば購入している商品について、ブランド、価格、個数、容量など、商品の周辺情報まで揃っていると最高です。
ところが、インタビュアーがビジネスへの意識が薄いと、最低限の購入品目情報を確認して終わり(ああ、それを買ったんですね)、という展開もよく見ます。これだと後からまとめる時に情報が断片的で分析や報告に厚みが出せません。
詳細な聴取項目はある程度まで調査票で細かく定義するものの、インタビュアーがビジネスへの貢献意識を強く持っていたり、最終成果物のデザインを意識できていると、自然とファクト情報も正確になっていくので助かるポイントです。
●④相手の発言を自身でも復唱確認している
オフラインのグループインタビューに同席している時のこと、モデレーターの方がインタビュイーの発言を自身でも復唱して確認する対応があり助かったことがありました。会話が同時に起きるとどうしても聴き落としてしまうんですよね。
発話情報のうち、固有名詞や数値情報は特に話の流れを掴むための重要情報です。インタビュアーが同席者を意識するのは特にFGIらしい対応ですが、どの調査でも復唱があると同席者はもう一度聞く機会を得られて便利だと気づきました。
もちろん、録画・録音がある時はデータを後から参照できますが、会話のキーワードが不明なまま聞いているとやはり理解度も落ちてしまいます。復唱によりデブリーフィング(または感想・意見の発散の場)の質は間違いなく上がります。
●⑤タスクが上手く行かない時に中止できる
ユーザーテストに同席していると、ユーザーがタスクにつまづいてなかなか進まないことがあります。もちろんこの時は待つのが原則ですが、どれくらい待つかは考えもので、観察効果がないのに時間をかけすぎてしまうのは悪手です。
ある時同じような場面で、モデレーターが無理に待たずに「そこはそのままでいいです、こっちをやってみてください」と柔軟に接していました。対象者のリテラシーに合わせてタスクや進行の重みづけをその場で調節していたのです。
この対応が無いとユーザーがずっと同じ場所で不便と格闘してしまったり、全体の時間をオーバーしたりしてしまいます。もちろんタスクを中止として良いかは高度な判断を伴うものですが、こうした対応にも進行の経験値を感じます。
●あとがき
インタビューの同席で他の人のモデレーションを見ることは、カラオケで人の歌を聞くような楽しみがあります。リサーチの世界では属人性が否定されていく中で、個性によって質問展開力・課題解決力が発揮される場面は見どころです。
●お知らせ
まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン「マナミナ」で連載している「現場のユーザーリサーチ全集」の最新記事が公開されました。2月は、インタビューの質問アイテムをスライド一枚にドキュメント化する方法について。
ニュースレター「リサーチハック 101」の最新号では、デザイン組織の広報活動とカルチャーデックとの相性を、事例から考察する記事を公開しています。※読者限定
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