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第3回 CXの源、EXを高める総務部門

総務部門はDXの変革期にこそ必要な部門

 総務部門は、その仕事は何かと問われると即答が難しい部門です。
その他の部署では扱わないが、会社にとって必要で広範囲な業務に携わるので、仕事は多岐にわたります。誰が担当するかわからなくなる落ち玉が多数発生するデジタルトランスフォーメーション(以後DX)の変革期にこそ必要な部門かもしれません。

 DXについて、各社で、いかに顧客体験(CX)を高めるか議論されたり、施行されて、成功事例もでてきています。一方で、掛け声だけで終わっていたり、デジタルシフトが思ったほど進行せず苦戦している企業のほうが多いのが現状です。大きく進む方向性については総論賛成であっても、各論では変革には摩擦がつきもので、社内がバラバラということがよくあります。その結果、経営はわかってない、社員がデジタルに疎い、あの部門が抵抗するなど不平不満のオンパレードです。しかし、このような従業員満足度(EX)が低い状態において、顧客体験(CX)を高めることはできるのでしょうか?

従業員満足度(EX)が高いと顧客体験(CX)も高くなる

 ハーバードビジネススクールの教授へスケットらの研究等、いくつかの研究結果でEXとCXの関連が認められています。しかもサービス業において、より相関が高まるようです。社員が会社に満足していなければ、顧客体験を高めることはできないわけです。管理部門のお客様である社員の体験をアップさせることで、間接的にCX の向上を果たすことができるのです。

 ではどうすればEX が、高まるのでしょうか?
幸福学によると、人が幸せを感じる4因子は次の通りです。

【幸せの4要因】
やってみよう:自己実現成長
ありがとう :つながりたい、感謝
なんとかなる:前向き 楽観性
ありのままに:独立、自立 自分らしさ

モノが充足され、かつデジタルの時代において、消費者に、モノからコト、マスからパーソナルへのシフトがおきているのと同時に、従業員も同様に変化している可能性があります。

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 また、アメリカの臨床心理学者ハーズバーグの有名な動機づけ・衛生理論では、モチベーションをあげる要素をあげています。満足をもたらす動機づけ要因と不満足をもたらす衛生要因が仕事には存在するということです。

【動機づけ要因と不満足をもたらす衛生要因】
動機づけ要因:達成、承認、仕事、責任、成長
衛生要因  :会社の方針、管理方法、仕事上の人間関係、労働環境、
       作業条件(金銭・時間・身分)

しかしながら、デジタルシフトの中、時代の変化と日本の現状とで乖離する部分があると感じます。先行きが混とんとした現代、会社の方針は大きくモチベーションに影響してきていますし、日本人は人間関係を重視する傾向があることから、管理方法や仕事上の人間関係も大きく影響していそうです。また昨今のテレワーク等労働環境についても変革期にあり、モチベーションとの関連がでています。デジタルシフトを実施していく中、部門間で連携し、迅速かつ継続的にオムニチャネルで消費者にきめ細やかでパーソナルなサービスを提供していく際、従来のやり方では従業員満足の維持すら難しくなっているわけです。
 上記にあげた要因の改善は、人事部門と総務部門が大きくかかわる領域です。総務部門は特に時代の変化にあわせて対応すべき重要な要因である会社方針の浸透、人間関係、労働環境、承認など重要な部分へ対応することができる部門です。

EXを高める効率的EXと楽しいEXの二つの切り口

 EXを高めるには効率的EXと楽しいEXの二つの切り口があります。
 EXを高めるファーストステップは効率的EXであり、労働環境、コミュニケーションの改善であります。コロナ禍における、テレビ会議、Teams等コミュニケーションツールの活用による効率化は、多くの企業で大小違いはありますが恩恵をうけたこと思います。今まで移動しなくてはできなかった全国の店長会議が即座にできたり、グループや経営層を混ぜたディスカッションやエクセル、パワーポイントの共同作業ができるようになりました。
 多数の店員をかかえ、デスクワークではない小売の店舗現場については、IT機器の活用方法も工夫が必要となります。タブレットやノートPCの配布は、一時的にコストがかかりますが、これからデジタルシフトを実施していく中で、必要投資です。しかしながら、タブレットやノートPCとなると常に持ち歩くわけにはいきません。また、アルバイト・パートのメンバーなど常に店にいない、入れ替わりの多いメンバーについては、利用が難しいです。そこで、BYOD(Bring your own device)、従業員のスマホの活用です。顧客情報の扱いについては難しいですが、動画マニュアル、シフト管理、業務連絡、在庫情報や売り上げなど 一部は企業秘密ではあるものの、利便性を考えれば最低限のリスクをとって、スマホで実施できるようにできます。

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 その他ITツールを駆使することで、モバイルオーダーや、セルフレジ、RFIDの活用による在庫管理など店舗のデジタル化が考えられ、ITツールを実行する環境構築の意義は図りしれません。ITツールは、正解を探していては時代に取り残されるので、トライ&エラーできるカルチャー作りが必要です。デジタルを駆使して空いた時間で、コスト削減というわけではなく、より楽しいEX化に取り組むことができるわけです。
 効率化のときの注意としては、単に時間を削ると一見スタッフの仕事量が減ったようにみえて、上長へ負担が偏っているだけのことがあります。その場合は、本質的に業務の効率化が必要です。

 次に、楽しく働くEXについて考えたいと思います。
 ウォールマートでは、店のオペレーション覚える際に、スマホのゲームが活用されています。このゲームは、App storeでsmart cityというタイトルでアプリのダウンロードが可能です。プレイヤーが従業員となり、在庫、カスタマーサービス、売上のKPIをあげていくゲームで、一般公開されています。ゲームの要素をいれることで、苦痛な覚えるオペレーションを楽しくこなすことができます。
 別の事例ですが、感謝を感じたときにポイントで渡すシステム、売場づくりなどで情報発信をすると「いいね」でほめてもらえるシステムも、ゲーム性を利用しモチベーションをあげている例です。
 またテレビ会議の普及により、従来と違ったコミュニティを社内で形成している会社もあります。従来は各店舗、各拠点ごとのコミュニティができていましたが、場所に関係なく専門性などでコミュニティが作れるのです。人間関係がモチベーションに作用するため、これは縦割り打破となり効果的です。東京と地方のコーディネートの得意なスタッフ同士が情報交換ができるわけです。
 表彰も「楽しい」の要素です。人に必要とされる、認められる承認は楽しさと繋がります。DXの中で求められる安心してチャレンジできる環境をつくることもできます。おもいきりチャレンジして失敗した人を表彰する、ノウハウ賞、成果事例の表彰などがあります。ただし、表彰も何回かやっていくと、どこまでやっていいの、これはだめでしょう?と経営、管理部門の規制でつまらなくなっていくことがあります。審査する人を変えたり、審査ルールを変えるなど変化があると盛り上がりを維持できます。
 また、経営層との対話づくりも満足度を高めているという声が多く聞かれます。経営層が何を考えているか、経営方針をダイレクトにきける機会を総務部門が企画するのは効果的です。

 EXをマネジメントしていくためには、実態を調査する必要があります。
 小売において、VOD(Voice of Customer)は重視されていますが、VOE(Voice of Employee)を聞くわけです。各種EX調査のサービスは多々でてきています。従業員が重要に感じていることと、従業員が満足している双方が浮かびあがってくる設計をおこない、従業員が重要に感じているものの満足していない項目をいかにあげていくかがカギとなります。調査だけにおわり、改善されなければ、2回目以降の盛り上がりにかけていきますので、アンケート取得、改善プラン検討、トップ層への報告、結果フィードバック社内広報・実行してPDCAを回していく管理部門の役割は重要です。

管理部門による横の関係構築で社内に好循環を生む

 デジタルの活用による従業員の無駄な仕事の撲滅により、本来やりたかった業務に集中することができ、仕事にゲーム性をもたせるなど社内で人と人をつなげる。仕事と仕事をつなげることができ、EXを高めることができます。従業員のEXをあげていくには、従業員を管理するのではなく、サポートしていく、尽くしていく、管理部門による横の関係が必要なのです。
そして、社員満足度(EX)向上→生産性向上・離職低下・品質・サービスの向上・顧客体験(CX)の向上→業績の向上→社員への投資→社員満足度向上と好循環が生まれるわけです。

ジェイ・B・バーニーは、競合優位性の理論でこのように言っています。
「模倣されやすいモノ、コトなどではなく、模倣されにくい人、組織、知識・ノウハウといった優れた資源を持ち活用するかが企業の競争力を高める」

総務部門は、競争の源となるEXを高めていくことのできる部門なのです。

林 雅也
(株)ecbeing 代表取締役社長
(株)ソフトクリエイトホールディングス代表取締役副社長
一般社団法人日本オムニチャネル協会専務理事
全農ECソリューションズ(株)取締役

1997年、学生時代に、株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売をするとともに、インターネット通販の立ち上げ。1999年、ECサイト構築パッケージecbeingの前身であるec-shopを開発、事業を推進。EC構築パッケージメーカーとして、2005年大証ヘラクレス上場、2011年東証一部上場へ寄与。2012年、ホールディングス体制移行にともない新たに設立した株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。 2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウン運営およびふるさと納税支援事業実施。2020年、日本オムニチャネル協会専務理事。

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