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第10のレシピ 暗黙知の形式知への置き換えは自らの手で!

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Recipe for success in contact center

 「新時代コンタクトセンター構築 10のレシピ」もいよいよ10番目のレシピです。前回からお届けしている「暗黙知」を「形式知」に置き換えていくお話は、もう一つのテーマ、インハウスセンターの構築へと繋がっていきます。今回は「なぜ、いまインハウスなのか?」の問いに、この「暗黙知」と「形式知」の関係をもとにお話しします。

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 この図は「新時代のコンタクトセンター」をシンプルに表したものです。センターはインハウスとアウトソーサーのハイブリッド型です。注目していただきたいのは「インハウス1」と「インハウス2」です。この2つは別の機能を持っています。「インハウス1」の機能はアウトソーサーを含めた全センターのためのものです。この機能の中で特に大切な点は「稼働管理」と「業務設計」です。「稼働管理」は統一のKPIに基づき効率的な運営をすることでコストの最適化を目指しています。この部分をアウトソーサーに頼っている企業のセンターをよく見かけますが、自ら運用してみない限り「何が適正か?」は分かりません。更に重要な機能が「業務設計」です。基本的には全センターで使うナレッジの作成を行いますが、企業の業務内容をよく理解していないと設計できません。またお客様の声(VOC)の収集や分析を行い業務改善やサービス開発に活かす役割も担っています。
 少し話題が広がりますが、「ナレッジ・マネジメント」という言葉を聞いたことがあると思います。1990年代にアメリカで生まれ日本でもブームになりました。当時「メイド・イン・ジャパン」の攻勢で製造業がどん底に落ち込んでいたアメリカ企業が、日本的な経営に目を向け、組織内の無形の資源や能力に注目し、「企業内の重複する業務の排除」「ノウハウの共有」などを推し進めた経営手法です。つまり、大切なナレッジ(知識)は企業の内部にあり、それを知り、共有する⇒その共有が利益を生むというは考えです。その後IT化により共有のスピードが一挙にあがりアジリティ(知的俊敏性)を持った企業がけん引役となりアメリカ経済は復活しました。一方、よい知的資産を持ちながらその活用が思うようにできなかった日本企業が取り残されていったという歴史はご存じの通りです。
 「業務設計はインハウスで‼」という背景には、こうした企業の中にある知識(ナレッジ)はその企業の人でなければできないという考え方があるからです。企業は通常、ある価値を創造し市場に届けます。そこには商品やサービスに対するコンセプトがあり経営理念と繋がっています。このコンセプトは企業の歴史や経験に根差していますので、企業内部の「暗黙知」の領域です。「インハウス1」での業務設計の役割は、この「暗黙知」を「形式知」に変換するプロセスを通して、形骸化した部分を修正し、新しい業務フローを作り、共有するというミッションです。さらにお客様の声を収集し分析することにより、新たな気づきが生まれることもあるでしょう。VOCレポートの形骸化も指摘されていますがインハウスで主体的に業務設計を行っている社員であれば、高い感度でお客様の声を受け止め、業務改革をマネジメントに直接進言することもできるでしょう。
 では「インハウス2」=お客様センターの役割はなんでしょう?大きく2つの役割があります。一つは複数のセンターの基準となるペースメーカーの役割です。「新時代のコンタクトセンター」はCloudベースで構築され同一の業務を全センターで行います。この時、規模の大小にかかわらず自社運営しているセンターのKPIは目標値となります。もちろんアウトソーサーのセンターの方が良いパフォーマンスを出すこともありますが、それも大切な指標です。二つ目は新たなオペレーションを行おうとするとき、まずインハウスのセンターでトライアルを行い業務フローや運用のルールに不備がないか確認できるという役割です。
 従来、この「インハウス1⇒HQ機能」「インハウス2⇒自らの運営による気づき」の役割をアウトソーサーに依存してきたため、企業にとって最も大切な「顧客接点でのナレッジ」が蓄積できませんでした。コンタクトセンターのデジタル化の遅れの原因もここにありますし、相変わらず機能別の複数のセンターを異なるアウトソーサーに委託している企業が多いこともコンタクトセンター改革の遅れにつながっていると感じています。
 江戸時代の商店では全ての知識は店内に詰まっており、経験豊かな奉公人や番頭さんがナレッジを駆使して対面接客にあたっていました。今、顧客接点はバーチャルな空間に広がっています。しかし視座を少し広げてみれば江戸の商店こそが商売の本質であることが見えてきます。コンタクトセンターのようなリアルな顧客接点を企業の知的創造の場にしていくことがCXの原点である気がします。そのための道具としてIT技術の投入⇒DXが必要となるわけです。
 「企業にとって情報は価値がある」と言われれば答えはYes!です。しかし情報がありすぎるとかえって物事が見えにくくなります。デジタル化でさらにデータ量は増え続けています。お客様にとって本当に欲しい情報をどう選ぶか?コンタクトセンターの現場にとってその情報を的確に提供できるか?は大きな課題です。つまりどこまでの精度で「形式知」を整備するかが問われています。1990年代にか書かれた、野中郁次郎、竹内弘高の名著『知的創造企業』では「暗黙知」と「形式知」の相互作用について次のように書かれています。

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出典:SECIモデル「知識創造企業」野中郁次郎、竹内弘高

図を参照
1. 共同化
 ⇒暗黙知である「経験」を共有することによって参加者が同じ方向を向く
2. 表出化
 ⇒暗黙知を形式知(言語化)することにより、明確なコンセプトに表す
3. 連結化
 ⇒形式知と形式知を整理、分類し組合わせることで新しい知識を生み出す
4. 内面化
 ⇒生み出された新たな形式知を再び組織にもどし暗黙知にする

こう書くと小難しい理論に聞こえますが、コンタクトセンターでの出来事に置き換えてみると、

1. 共同化
 ⇒経験の共有、つまり観察、模倣、練習によって話す技術を身に着ける 
  →OJT
2. 表出化
 ⇒ここが今回のレシピのテーマ、業務設計や運用設計で暗黙知を形式知にする
3. 連結化
 ⇒ナレッジを整理するとともに現状に合わない業務をリストラし新たな体系を作る
4. 内面化
 ⇒お客様接点から生まれたナレッジを新たな企業文化に反映していく

 このようにコンタクトセンターの日常の中で常に「暗黙知」と「形式知」は行ったり来たりするのです。コロナ禍で「ニュー・ノーマル」という言葉が生まれました。「新時代コンタクトセンターのあり方」をご一緒に提案しているWalkMeの道下さん salesfrceの谷川さん LINEの飯塚さん AWSの羽富さんと以下のようにまとめてみました。

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 私は現在3社のコンタクトセンターの再構築のお手伝いをさせていただいています。それぞれ別の生い立ちを持つセンターですが、いずれもご紹介したHQ機能を持つインハウスとアウトソーサーのハイブリッド型センターを構築中です。特にインハウスの構築は今回のテーマの具体化を目指しています。流行り言葉でいうならばCXの視点を大切にし、手法としてDXにチャレンジしています。

 今回で「新時代コンタクトセンター10のレシピ」は終了ですが、あまり間を置かず、「新時代のコンタクトセンター実践編」をお届けしたいと考えています。多くのパートナーに登場いただき、コンタクトセンターのデジタルシフトを中心に、より具体的で実践に役立つ情報をお届けいたします。ご期待下さい。

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出水 啓一朗 (Keiichiro Demizu)
1974年信越放送入社。2003年WOWOW常務取締役、2006年スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)執行役員常務、2009年同社取締役執行役員専務兼マーケティング本部長を経て、2011年スカパー・カスタマーリレーションズ代表取締役社長に就任。2019年6月同社退任。

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