見出し画像

働いてひきこもりきる

長引くひきこもり状態を美化せず問題視もせず、理想的な姿を「幸せにひきこもりきる」という新しい表現で受容する良い記事に出会いました。暮らし方の発端となった出来事や、この暮らしを続けることによって起きる課題はあるかもしれないけれども、本人がその環境を選び、今後も心配なく続けていけるのであれば、それはひきこもり「きる」ことである――境地に達した清々しさを感じます。

就労に関する記述もいくつかあって、デジKAMAとして嬉しかったのはこの箇所です。

ひきこもり状態のまま就労することも十分可能です。また、オンライン化が進んでいるからこその新しい仕事も生まれてきています。

宮崎大学教育学部 境泉洋教授

まさに私たちの事業だからです。

元でも現役でもご一緒に

事業に登録する人の入り口の1つに挙げられています。ひきこもり状態を脱することを目標にするとか、逆にひきこもったままでないと利用条件に該当しない、といった制約はありません。
「人と接する機会がほしい」、「朝起きて外に出かける規則正しい生活を送りたい」、「通勤に耐えうる体力をつけたい」と通所を選ぶ人は、私たちが何もしなくても、自動的にひきこもりでなくなります。
反対に、在宅を選ぶ人には、インターネットにつながるパソコンさえあれば、家から一歩も出てもらわなくたって仕事をお願いできます。条件と環境だけでなく、就労意欲とスキルが備わっていることが必要ですが。

働ける状態にあると決めるのは誰?

就労意欲とスキル。字面で見ると何となくわかるような気がしますが、実際どのように高低を測るのでしょうか。
予め定めた項目を元に、一人ひとりの状況を当てはめて評価していくのが就労アセスメントです。支援者の感覚頼りでなく、日頃の業務の出来栄えや日報の記載内容を裏付けとします。評価対象のご本人に現状をお伝えするだけでなく、連携する複数の機関で結果を共有すれば最適な支援を検討できます。

既存の就労アセスメント

一般的な会社員を想定した従来の働き方では、改訂版・就労移行支援事業所による就労アセスメント実施マニュアル p.3にもあるように、「職務スキルを持っていて職務をこなせたとしても、職務を遂行するために必要となる職場環境への適応面の課題が生じる可能性」があります。ですから、先につまづきをなくしておこうという考えから、十分な食事・睡眠が摂れていることや規則正しい生活を送れるための体力作り、身だしなみや金銭管理といった項目までもが職業準備性のアセスメントに含まれることがあります。

一般的な会社員とデジKAMAワーカーの比較
(1週間の勤務時間・日数の範囲は2023年11月現在)

言わずもがなですが、就職はゴールではなくスタート。生き生きと働き続けるためには、所属する集団に求められる基準値を満たす必要があります。不文律(目に見えない決まり)があったとしても、アセスメントによって可視化し、定期的に振り返って確認できると安心です。

デジKAMAの就労アセスメント

デジKAMAはどうでしょうか。開所前、どんな人がワーカーとして登録してくれるのか皆目見当がつかなかった私たちは、ここで大いに悩む羽目になりました。
もし就労移行支援事業所などと同様にワーカーが一般就労できることを目指すのであれば、職業準備性についてもスモールステップで目標を設定したり学ぶ場を作ったりして支援していかなくてはならないでしょう。しかし、この事業は従来の障害福祉サービスの就労支援とは違います。一般就労を目標としている人は別の手段を併用することで自力で目指してもらう。場所はともかく、無理なく働き続けたいという人は、しっくり来る仕事のスタイルをスタッフと作る。どちらの人でも、最低賃金以上を稼ぎながらさまざまな仕事に取り組んで実績と信頼を積み上げる場とする。これが私たちの立ち位置でした。

就労アセスメントは「必ずこれを使いましょう」と標準化されているものではなく、事業所ごとに独自に作成することもできます。ここではないどこかの一般的な職場に順応できるように作られたアセスメントでなく、デジKAMAで活躍できるワーカーのためのアセスメントは、

  • パソコンを使った仕事を、求められた品質と速度で遂行できる

  • 自分の得手・不得手を理解し、誠実かつ自律的に取り組む

これら2点が測れたら十分、多くは望まなくてよいと考えるようになりました。

デジKAMAで活躍するには

  1. 必要なスキル(ないとそもそも仕事をお任せできない)

  2. 不問のスキル(あれば業務の幅が広がるが、なくても働ける)

  3. 不要なスキル(仕事の効果や効率にはまったく影響しない)

を定義し、普段スタッフがワーカーに求める行動を1. 必要なスキルに絞れば評価もしやすく、ワーカーも明確な基準を元に自分を律することができ、安心して働けるのではないかと考えました。
1. 必要なスキルは別の記事にも少し書いたことがあるので、割愛します。

就職活動で最低限のマナーとして挙げられる対人スキル。
尊敬語や謙譲語などの言葉遣いは、デジKAMAでは2. 不問のスキルです。スタッフとのSlackのやり取りで、「わかりやすく教えてくださりありがとうございます。かしこまりました。次回よりそのように対応いたします。」などと丁寧に返事をもらうより、ほんの数秒で「👍」「🙇‍♀️」などのスタンプがつくほうが嬉しいですから。人をさん付け(敬称)で呼ぶことと、ですます調(丁寧語)さえ心がければ、堅苦しさとは無縁の気持ちの良いコミュニケーションを取れます。
不問と言っても、別に言葉を軽視しているわけではありません。普段から言葉に対する感性が高いとわかる人には、スプレッドシートの入力や画像仕分けといった機械的な作業に加えて、記事の執筆や校正といった時間をかけて向き合う創造的な作業もお願いできます。

身だしなみは、通所の人にとっては2. 不問のスキルですが、在宅の人にとっては何と3. 不要なスキルです。普段の稼働日は、開始から終了までSlackのテキストメッセージのやり取りで完結することが多いです。ハドルミーティングは初期に無効化しています。Google Meetで話すことは稀で、「今ちょっと話せます?」なんて不意打ちはなく、日時を予告します。在宅ワーカーの中にはWebカメラを持っていない人もいることから、スタッフだけ顔を映す会議もあります。稼働中のワーカーの見た目を知りようがないし、それによって印象が左右されることもありません
極論、ご自分の決めた時間内に真面目に取り組んで結果を出せるのであれば、部屋着に寝癖頭のままでもよいわけです。ただし、体調が悪い・睡眠不足で集中できない場合は早めに切り上げてもらいますし、お支払いするのは働いた時間分のみです。

終わりに

ひきこもり状態は恥ずべきことではありません。追い立てられるように仕事をして心身を壊すより、安全な場所で自分らしく暮らせることのほうが大切です。顔出しや通話を強要されず、できること・好きなことを考慮した業務割り当ての中で、私たちと一緒に仕事をしてみませんか。仕事を通じて新たに見えた世界がご自分のこれからの生活をより充実させてくれることを願ってやみません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?