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快楽の小盛り

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快楽の小盛り 03:しらないものを食う

快楽の小盛り 03:しらないものを食う

食事は欲を満たす。
満たしたい欲はいわゆる食欲に限らない。腹が減るから食う、栄養のために食うをやるには人間は文化を作りすぎた。今や心と舌を喜ばせるために食うものが大半である。食わねば力が出ない、食わねばじきに衰弱の影が来る、というわけでもないのにわれわれは食わでものものを食っている。遊園地で車のついた箱に乗り、登らでもの坂を登り下らでもの坂を下る遊びを思いついてわあきゃあ言っている種が我々である。

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快楽の小盛り 02:銭湯

快楽の小盛り 02:銭湯

ルース・ベネディクトの「菊と刀」に曰く、快楽に消極的な日本人がおおっぴらに楽しむものが風呂なのだという。銭湯を知るまではこれを甚だ疑問であると思って頭の片隅に置いておいたが、銭湯の広い湯船で湯に撫でられるとこれは然りと思わずには居られない。平日の昼間に風呂屋に行くのは全くの快楽である。

とはいえ、湯に浸かるのもサウナもさして得意ではない。身体が熱をもってぼうっとするのが苦手だ。肺が腫れぼったくな

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快楽の小盛り 01:定食屋

快楽の小盛り 01:定食屋

寝屋川という街に住んでいる。大阪のはしっこのベッドタウンで、人が住む以外用のない土地である。無職をやっていると無闇に時間があって退屈なので散歩をやるが、歩いていても誰かの生活が迫ってくるような道が通っている。二十余年住んでいて遊ぶ用もなかったのでこうして散歩をやる以前は見たこともない景色ばかりで楽しい。

足が向いた先に店があれば冷やかしに這入ることもするが大抵は来る人に合わせた趣味に染まっていて

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快楽の小盛り

めっきり食が細くなった。細くなったといえどもよく食べるほうではあるが、一時期と比べれば細くなった。まず大盛りが怖い。食べ切ったあとの、上がった血糖値がもたらすだるさが恐ろしい。金を払って倦怠感を買うようなものではないか。同じ理由で「大盛り無料」にも心が躍らなくなった。今日も定食屋でご飯を小盛りにしたが随分大人になったなと思う。

つぎに揚げ物が心のうちの、上座の部分から退いた。じゅわっと揚がった茶

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