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「パルスマーケティング」についての考察-1

パルスマーケティングとは,「ネット時代の消費行動は,パッと瞬間的に欲しくなり購入にまで至る傾向がある」と考え,マーケティングのやり方もそれに合わせて行こうと考えるものである。瞬間的に欲しくなることは,以前より「衝動買い」と言われていたが,衝動買いをどうやって引き起こしていくべきなのか?とも考えることができる。(少々理解はまだ足りないかもしれないが,この理解を起点としたい)

私は割と疑り深いので,Googlが提唱していると言ってもそのまま受け入れるというのはどうなんだろう,って思っていたりする。まだ,否定をする段階でもないし,だからと言ってする肯定をする段階でもないだろうと思うのだが,パルスマーケティングという考え方が,あまりに買う瞬間にのみ着目し過ぎているのではないだろうかとも思え,今後何度か考察をしてみたいと思う。もし,単なる「衝動買い」とどう違い,買うという瞬間に「何が」背中を押すかのプロセスを解明することができれば,それはそれで面白いと思う。

参考にしているのは,この一連の記事

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冒頭においては,ECサイトの普及や利用金額の増大などのデータが提示されている。その傾向については他にもいくつか同様のデータもあり異論を挟む余地はあまりない。

次の記事においては,「買い物行動への影響」として調査データが提示され,このデータの考察から以下の「パルス型消費行動」についてのトレンドを導き出している。

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パルス型消費行動についてのトレンド
1) 今、人々は買う瞬間まで知らなかった名前の商品を買うことに躊躇しなくなってきている
2) 今、人々は何かを買うためにお店や ECサイト に行く時点で、具体的にどの商品を買うかまだ決めていないことが多い
3) 今、人々は暇つぶしにスマホを眺めている時に、偶然知った商品をその場で買うことに躊躇しなくなってきている。

現代の日本人にとって、24 時間すべてが買い物のタイミングであり、空き時間にスマホを操作しながら瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたいと思う商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせるという消費行動が広まっていることがわかります。
(引用:https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/articles/search/shoppersurvey2019-2/

まず,上記の表は,実はとても読むのが難しい。いくつかのポイントを挙げてみる。

1)自家用車カテゴリーについて
 まず目につくのが「自家用車」の項目。問1の「知らなかったブランドを買うことに躊躇がない」という質問に対しての回答が-(ハイフン)になっている。おそらく,統計的に採用できるデータではないという判断があったのだと思われるが,一般に自家用車のような高額の商品は買いまわり品と呼ばれ,購入までに様々な情報を入手しながら購入を検討する商品と考えられている。その為に,自家用車の購入にあたっては「買う瞬間まで知らなかったブランドを購入する」ということはほぼないだろうと推測される為に-(ハイフン)という結果は,納得できるデータである。
 ところが,問2の「店舗に行く時点でどのブランドの商品(自家用車)を買うか決めていない」,問3の「偶然知った商品(自家用車)をその場で買うことに躊躇がない」という質問に対して,それぞれ46.3,38.7というポイントが出ているのが,買いまわり品に対する一般的な考え方として特異に感じはしないだろうか。

日本の場合には,自動車は系列あるいはブランドごとに販売店が決まっている。ある価格帯の自家用車を購入検討する場合,実際にはトヨタの店,日産の店,マツダの店をそれぞれ訪問しながら購入検討を行う。Webの行動としても同様である。様々なサイトを色々と訪問しながら候補のブランドや機種を絞り込んでいくのは買いまわり品の特徴である。つまり,トヨタのお店に行く段階(トヨタのWebサイトを訪問しようと考える段階)ではトヨタの車にするのか日産の車にするのかはまだ決めていない可能性はある。その意味では,問2の「店舗に行く時にはどのブランドの商品を買うかは決めていない」という質問に対してはYesであると答えることができるだろう。またあるいは,「トヨタを買おうと思ってはいるけど,日産の車も見てみる」という人にとっては,Noであるし,YesとNotとが拮抗することも理解できる。

また,問3について,暇つぶしにスマホをいじって偶然知った自家用車をその場で購入した実際のケースはどのくらいあるのだろうか。筆者の経験上,あまりそのようなケースが多数存在するとは思えないのだ。ただし,回答者が質問の内容を「暇つぶしにスマホをいじって偶然あるブランドの自家用車(あるいは特別限定車など)知り,その後の検討を経て最終的に購入に至ったことがある」と解釈したのであれば,それは通常の消費行動として理解できる。 あるいは,店舗でたまたま特別仕様車をみて,あるいは購入を検討していた車種とは異なる車種を見て,それに変更したという状況までも含めているのだろうか。もしかしたら,回答者がそのように解釈して回答したとしたのなら,本来の趣旨とは異なる調査結果になっていることになる。

2)生鮮食料品カテゴリーについて
次に生鮮食品についてみてみる。問1において他のカテゴリーよりも低い数値を示しているのが,逆に興味深い。生鮮食料品の場合,ブランドの数も種類も多様であり,新製品の投入や終売などの商品の入れ替わりも激しい。であれば,初めてみるブランドでも逆に躊躇は少なくなると考える方が合理的ではないだろうか。一転,問2では61.8ポイントと高い。生鮮食品はスーパー等で購入行動が発生することが多いと思われるが,日常の買い物の場合,そもそも買うべき商品をあらかじめ決めず,店舗内を回遊しながら最終的に決めていくことも多いだろう。例えばソーセージやベーコン,パンを買おうと思って出かけた場合でも,いつも同じブランドや商品を買うケースもあれば,いつもは買わないブランドのソーセージやベーコンが特売商品になっていれば,それを購入することもある。また,価格以外にも天候状況やテレビなどでの話題によって購入する商品やブランドは様々に変化していくことは流通においては日常的に見られる光景である。であれば,この傾向も別段最近の傾向であるとは言えない。

3)洋服カテゴリーについて
洋服の場合には,問1問2についてのポイントが高い。洋服やファッション用品などは,趣味性が高く衝動買いがよく行われるカテゴリーであろう。なぜならアイテム的にも多品種少量生産的要素があり,ユニクロなどの大量販売ブランドを除き店頭在庫においてもスペース的限界がある。洋服カテゴリーの通常の買い方として日常的にウインドウショッピングをしながら自分の感性に合った洋服を常に探し見つけたらブランドを事前に知らなくてもそれを購入するというのが一般的であろう(注。消費者としても,気に入ったアイテムを見つけたら「これを逃したら次は買えないかもしれない」と言った一期一会的な意識がある。したがって,ショッピングに出かける(ECサイトを見に行く)時にはどのブランドを買うか決めていないことは多く,でも気に入ったら知らないブランドでも購入に至ることがあり,これらの数値も高くなるであることは容易に想像できる。ショッピングというものは,買おうと思っていなくても実際商品を目の間にすると「ああ,そういえばこんなのがほしかったの」と思うものである。

一方で,問3に対しては他のカテゴリーと比べて低めの数値が出ていることが注目される。ということは,買い物をしようとしている時にはブランドを実際に知らなくても衝動買いをすることはあり得るが,買い物が目的ではない,暇つぶしの中ではさほど実際の購入には至らないということができる。

4)問1の数値について
問1のポイントを,カテゴリーを縦断してみてみるとどのカテゴリーでも低い数値を示す傾向にある。ということは,どのカテゴリーであっても,ある程度事前に知っているブランドの方が購入に至りやすいと言える。

以上を,懸念をまとめてみると,「24 時間すべてが買い物のタイミングであり、空き時間にスマホを操作しながら瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたいと思う商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせる」とは異なる結論が出てくるのだ。

数値だけをみて考察すると,それは,

・事前に知っているブランドの方が購入に至りやすい。
・何を買うのかを決めていなくても,常に探している状態にある場合,気に入ったものがあれば購入に至る。
・暇つぶし時の偶然では,まだまだ購入には至りにくい。

と考えた方が,数値を的確に表しているのではないだろうか。

なんだか,パルスマーケティングに対しての反論のようになってしまったが,この疑念をもとに,以降さらなる考察を進めてみる。

(注:ただし,その場合でも信頼できるショップ,あるいは皆が信頼を置いているショップであり,あるいは自分自身で実際に手を取り品質を確認したのちに購入に至ると考えられる。

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