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東京農工大学と東京都立大学、ポリエステルを原料の単量体に完全分解する触媒反応を開発。


東京農工大学は2022年07月01日に、市販のペットボトルも完全分解できるポリエステルを原料の単量体に完全分解する触媒反応を開発したと報告した。

国立大学法人東京農工大学大学院工学府応用化学専攻の安倍亮汰(博士前期課程2年)、同大学院工学研究院応用化学部門の小峰伸之助教、同大学院工学研究院応用化学部門の平野雅文教授の研究チームは、東京都立大学大学院理学研究科野村琴広教授と共同でポリエステルを単量体に戻す触媒反応を開発した。

https://time-az.com/main/detail/77235

廃プラスチック問題(プラごみ問題)は人類が直面している大きな社会課題の1つで、ポリエステルは繊維や食器類、PETボトルなどの飲料容器、自動車部品や農業用資材などに使われている汎用性高分子であり、大量に消費されている。

ほとんどのプラスチックは自然界で分解することが難しく、毎年大量に東アジアを中心とした河川から海洋に流入しつづけていると考えられている

2020年度の国内廃プラスチックの総排出量は822万トンと推計されている。

日本におけるプラスチックのリサイクル率は86%とされているが、その実態は溶解して、同じ素材として再利用するなどのマテリアルリサイクルが21%、分解油やガス化して利用されるなどのケミカルリサイクルはわずか3%である。
残りの63%はサーマルリサイクルとよばれる方法で、プラスチックを燃料として使っているに過ぎない。

今回の成果により廃プラスチックに関わる社会課題の解決が、世界規模で期待されている。

最大のテーマは、ポリエステルを原料の単量体に完全分解までの時間と触媒の生産能力だろう。
さらに、これまでにプラスチックをつくる重合触媒は優れた触媒が数多く開発されてきたが、プラスチックを分解する触媒の研究はまだ始められたばかりで、今後の課題はより安価に、より温和な条件で分解を可能にして経済的にも見合った分解反応を構築することである。これまでに検討した典型元素や遷移元素、希土類元素のうちランタンの錯体が特に高い活性を示しまたが、今後は触媒活性種の解明を行い、さらに活性の高い触媒の開発を進めることである。
研究室でのスケール拡大には限界があるためより大きなスケールでの実証実験ができれば社会実装に近づくと期待されている。
プラスチックには、ポリエステルのように縮合反応とよばれる反応によって合成されるものと、ポリエチレンのように付加反応とよばれる反応によって合成されるものの2種類に大別できruが、まずは本触媒系の改良により縮合反応により合成されるプラスチックの分解の研究を行う。
また今後は分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す創造的分解に挑戦が求められている。

この分野は、今回の発表により、より早く開発が進むことが期待できる。

この研究成果は、イギリス王立化学会Chemical Communications誌(6月27日付電子版)に掲載されました。
La(iii)-Catalysed degradation of polyesters to monomers via transesterifications†
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Ryota Abe,a
Nobuyuki Komine, ORCID logo a
Kotohiro Nomura ORCID logo b and
Masafumi Hirano ORCID logo *a
Author affiliations
*Corresponding authors

aDepartment of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology, 2-24-16 Nakacho, Koganei, Tokyo, Japan
E-mail: hrc@cc.tuat.ac.jp

bDepartment of Chemistry, Graduate School of Science, Tokyo Metropolitan University, Hachioji, Tokyo, Japan
E-mail: ktnomura@tmu.ac.jp

Article type/Communication
Submitted/30 Apr 2022
Accepted/27 Jun 2022
First published/27 Jun 2022
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参考文献

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