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コロナ禍における建設業の海外動向(アメリカ編)


はじめに

株式会社digglueでは、毎朝社員持ち回りで勉強会を行っています。

本ノートは、こちらの社内勉強会にて「COVID-19は世界の産業にどの様な影響を与えたか?」というテーマのもと、アメリカの建設業をピックアップして紹介した際の資料になります。


上の記事にも書いてあるとおり、弊社の勉強会は社内に閉じた内容というよりは「そもそも世の中に対しても価値ある情報を取り上げていこう」ということも意識しながら運用されています。


2019年末から、唐突に世界を混乱の渦に陥れたCOVID-19。
現地のレポートはちらほら出始めているものの、日本向けの情報はかなり数が限られているため、建設業に関わる方にはぜひ一度目を通して頂ければと思います!


総括

- 2020年上半期は、建設停止命令、現場での物理的な距離を取った工法の確立、材料・備品・機器の仕入遅延などによる影響が大きい半年間となった。
- 軒並みコロナの影響で需要も減少。それに伴い雇用も絞られている状況。
- 資材の価格低下と案件総数の減少に伴う入札の激化により、建設にかかる平均コストは昨年と比べて減少傾向。
- 2021年は多少回復すると予想されるも、2019年の水準に回復する可能性は低い。
- 今後の展望としては、遠隔監視や新工法(プレハブ工法・モジュール化建築)、デジタル・サプライチェーンといった領域が伸びる可能性。


全体的に需要は大きく落ち込むも、戸建住宅は伸長

Dodge Data & Analytic社のレポート(https://www.construction.com/news/construction-starts-step-back-september-2020)によると、2020年1〜9月の累計着工金額は、
− 非住宅建築物・・・前年比-28%
- 住宅建築物・・・前年比+1%
− 道路やガスプラントなどの非建築工事・・・前年比-18% 
となっていました。

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非住宅建築のカテゴリでは、特に製造業関連の着工が前年比-56%と、工場などの設備投資に対して踏み出すことが難しい現状が伺えます。


唯一昨対がプラスとなっている住宅建築のカテゴリですが、内訳で見ると一戸建ての着工件数は昨対比 +6%多世帯住宅の着工件数は昨対比 -12%という形でした。同カテゴリについては、2019年1〜9月の昨対比が -6%と決して順調に伸びていた領域ではないことや、コロナ禍におけるCompassのサイト上での検索履歴を分析した結果マンションが7%減少する一方で一戸建てが40%増加していた、といった発表もあったことから鑑みるに、コロナ起因で戸建住宅のニーズは高まってきていると考えて問題ないでしょう。

非建築工事については、高速道路・橋梁といった分野は 昨対比+2%と微増したものの、その他のものは軒並みマイナスといった状況になってしまっているようです。 
本来は公共工事で需要を賄うといった対応が取られるケースも多く、そもそも近年の建設業界の成長自体も公共工事の伸びが後押ししていたという背景もある中で、今夏時点でもすでに65%の都市がインフラ投資のための資本支出を中止または延期せざるを得なくなっている、といったNational League of Citiesの調査結果が出ており、全体を賄うレベルで行政側が動きを取ることは現実的に厳しいようです。

需要の減少が跳ね返り、失業率も大幅な増加

建設業界を取り巻く失業率も深刻な状況で、2020年3月 6.9%⇒2020年4月 16.6% と、1ヶ月の間に10%近くも上がってしまう状況となっています。
2020年10月に至るまでに 6.8% まで取り戻してはいるものの、本来夏〜秋にかけては繁忙期で失業率も低水準となるタイミングのため、依然として厳しい状態が続いています。(10月の失業率が6.8%というのは直近7年で最低)

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↑U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSの発表資料より(https://data.bls.gov/timeseries/LNU04032231?amp%253bdata_tool=XGtable&output_view=data&include_graphs=true)

コロナの影響で工事コストは一部減少傾向

Jones Lang LaSalle社のレポート(https://www.us.jll.com/en/trends-and-insights/research/construction-outlook)によると、例年は工事にかかるコストが微増傾向となっていたものの(2018年は3.4%、2019年は1.4%上昇)、今年は減少に傾く可能性があるようです。各カテゴリ別の状況は下記の通り。

①材料費
6月時点の調査では、建築資材の価格は年初から3.6%下落となりました。需要が大幅に減ったことが主な原因です。
ただ、材料費のうち木材の価格は他と反して上昇傾向にあります。リモートワークや、小売・レストランでのコロナ対策(仮設カウンターの設置等)による需要増と、カナダの製材所の操業停止による供給源などが原因で、今後はさらなる価格上昇や製品不足の恐れも懸念されています。

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②人件費
上で取り上げた需要減、失業率の上昇によって、賃金も4月に一度大幅な下落がおこりました。その後は元の水準に戻っているものの、例年に比べて上がり幅も少ない状態になっています。
(なお、アメリカも日本同様に建設業界は慢性的な人材不足が課題となっていて、その影響で賃金は上昇傾向。)
ただ、アメリカは地域によって労働組合の整備に格差があるようで、その辺りがしっかりとしている地域では4月の時点でも賃金は上がり続けていたそうです。

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↑U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSの発表資料より(https://data.bls.gov/timeseries/CES2000000008?amp%253bdata_tool=XGtable&output_view=data&include_graphs=true)

JLLからは、今までに比べて技術者が見つかりやすくなっているという調査結果も出ています。

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③その他
コロナ禍での工事実施によって、一部オペレーションコストは増加しているようですが、上記の材料費の減少等を上回るほどではないのでは?と言われているようです。
ただ、例年に比べて毎月状況が目まぐるしくかわっているため最終的な着地は予想が難しい状況です。

やはり、ロックダウンの影響は色濃い

こちらも、Jones Lang LaSalle社のレポート(https://www.us.jll.com/en/trends-and-insights/research/construction-outlook)からですが、建設中だった工事のうち、93%は自宅待機命令の影響を受け、26%は建設停止命令の影響を受けてしまっており、最も工事の稼働率が減ってしまった週と3月第1週の比較では、ニューヨークといった建設停止命令を受けた地域では -80%以上という非常に大きい影響を受けてしまっている様な状況です。

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また、その後の工事量の回復状況についても、建設停止命令が下った地域は鈍化傾向にあり、全体の需要低下を引っ張っているような状況です。

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コロナ禍の工事は、今までと異なる運用を求められる

現地の建設会社では、現場での感染防止のため、下記のような各種施策の実施は今後も求められていくと考えられています。
- 物理的距離を保つためのガイドラインの導入
- 手洗い場の追加
- 現場の清掃頻度の向上
- 作業員への追加保護具の着用義務化

また、地方自治体なども労働者の安全確保施策を実施したことで、コロナ禍当初は許可証や検査の遅れが頻発しており、外部起因のスケジュール遅延も起こりえます。

全体としては、上記のような外部影響や、物理的な距離の関係で現場に入れられる作業員が限られること、行政による建設停止命令等の通達といったことで発生していくスケジュールの延長に伴うコストの増加、契約の蒔き直しといった部分が大きな懸念点としては挙げられています。

今後伸びると予想される領域もある

Deloitte USのレポート(https://www2.deloitte.com/us/en/pages/energy-and-resources/articles/engineering-and-construction-industry-trends.html)によると、今後下記のような動きが出てくると予想されています。

- 交通、医療関連といったプロジェクトは今まで以上に活発に動いていく可能性もある。(ホテル、小売、エンターテイメントといったプロジェクトは厳しいと考えられる。)


- プレハブ工法やモジュール化建築といった、建築現場の距離的な制約を回避しつつ工事を進められる分野は伸びると予測され、またそれらの新工法の普及は、長期的に見ると労働生産性の向上やスケジュール短縮といったコストメリットが生まれていくと考えられる。

※プレハブ化(プレハブ工法)・・・プレハブ工法は、建築物の一部又は全ての部材をあらかじめ工場で製作し、建築現場で建物として組み立てる建築工法である。(Wikipediaより)
※モジュール化・・・モジュール化建築は新たな建築構造です。モジュール化建築構造システムは1つの部屋を一個のモジュールとして工場で事前に製作され、モジュールの内部空間を工場で配置され、装飾されてから、現場に運ばれて、吊上げ作業を通じて、建物に安全性高く組み合わせられます。(https://www.rj-c.jp/%E3%83%A2%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%8C%96%E5%BB%BA%E7%AF%89%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%B7%A5%E6%B3%95/より)

- デジタル化はより一層進み、工期遅延に伴う人的・物的資源の効率的な利用も不可欠となることから、デジタルサプライチェーンの領域は重要視されていく。

- ロボットの導入や、建設現場の遠隔監視ドローンの利用によって現場に行く業務の割合を軽減する施策も注目を集め、すでに動きが取られ始めている。

- 上記の流れから、建設業界とテクノロジーベンダーとの関係も密になってきており、近年減少傾向であった建設業界のM&A活動も主にデジタル化の領域で活発化する可能性があると考えられる。

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