脂質は悪者か?
こんにちは。管理栄養士のTany.(タニィ)です。
食と健康に関する、小難しい国の基準や法令をわかりやすく伝えていきます。
前回より、日本人が摂るエネルギーや栄養素はどのくらいか?という話をしています。
参考にしているものは厚生労働省から出ている、「日本人の食事摂取基準」です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
今日のテーマは脂質です。
脂質のことを簡単に
話に入る前に、脂質とは何か?という話をします。
悪者のイメージがついている方が多いかもしれませんが、脂質は効率の良いエネルギー源になる他、細胞の膜やホルモン、ビタミンの材料になっていたり、体温を保持したり、ビタミンの吸収を良くしたりしている栄養素です。
もちろん摂りすぎはよくありませんが、脂質も体にとっては重要な栄養素の一つです。
脂質は種類が豊富であるため、大まかなグループ分けをするとともに食品の具体例をいくつか挙げます。
① 飽和脂肪酸:牛脂、豚脂、バター、生クリーム、チーズ、やし油、ショートニングなど
② 一価不飽和脂肪酸:オリーブ油、菜種油、調合サラダ油など
③ n-6系脂肪酸(多価不飽和脂肪酸):ごま油、大豆油、コーン油、くるみなど
④ n-3系脂肪酸(多価不飽和脂肪酸):えごま油、あまに油、ブリ、サバ、ウナギ、サンマ、イワシなど
⑤ コレステロール:卵黄、レバー、すじこ、うになど
このうち身体での中で作り出すことができない脂質は ③n-6系脂肪酸 と ④n-3系脂肪酸 で、これらが必須栄養素です。
脂質はどのくらいとればいいの?
これまでの話の通り脂質は大きく分けて5種類ありますが、そのうち③と④以外の3種類は体内で作ることができるので、脂質全体で必要な量は設定されていません。
そして必須栄養素である③と④についても、研究が充分でないことを理由に必要な量が設定されていません。
ですが、必須栄養素であるにも関わらず、どのくらい摂ったらいいかわからない、というのは少し困ってしまいます。
そこで、毎年行われている「国民健康・栄養調査」という、国民の健康状態、栄養摂取状況、生活習慣を把握するための調査の結果を活用しています。
表1
“このくらい摂っていた人々は、摂取不足が原因でかかる病気になっていない。その中央値にしておこう。”
という、経験則からの設定です。
今後研究が進めば、必要量が設定されるかも知れません。
今の日本人の食生活ですと、実際は摂取不足を心配するよりも① 飽和脂肪酸 の摂りすぎに注意することの方が重要かもしれません。
食事摂取基準でも、生活習慣病(特に脂質異常症や心疾患)の予防のために、1日のエネルギー量の、14歳までは10%以下、15-17歳は8%以下、18歳以上は7%以下が望ましい、とされています。
しかし、この値も国民健康・栄養調査の結果の中央値となっていますので、摂取量を守ったからといって生活習慣病の予防が必ずできるというわけではありません。
表2 飽和脂肪酸の食事摂取基準(%エネルギー)
具体的な食品に置き換える
エネルギーやたんぱく質の量と比べると脂質の話ははっきりしませんが、せめてどのくらい食べたらどのくらいの脂質を摂ったことになるのかは知っておきたいものです。
そこで、
(1) 飽和脂肪酸の1日分(上限量)の食品置き換え
(2) 脂肪のうち必須栄養素2種の1日分の食品置き換え を
無理やりしてみたいと思います。
20~40代の女性を想定して行いますが、考え方はどの年代も同じです。
1日に必要なエネルギーは、前々回のnoteの
表1 推定エネルギー必要量 より、
18-29歳で2,000kcal、30-49歳で2,050kcalです。
今回は計算しやすいように2,000kcalとします。
そうすると、飽和脂肪酸の目標は、
2,000kcal×7%=140kcal以下
必須栄養素2種の目安の量は、
n-6系脂肪酸:8g、n-3系脂肪酸:1.6g です。
今回は、この3つの指標を満たす食材の組み合わせを考えてみます。(脂質が多く含まれている料理のみ抜粋)
●朝食
・納豆 1パック(50g)あたり
飽和脂肪酸:6.5kcal
n-6系脂肪酸:2.49g、n-3系脂肪酸:0.34g
●昼食
・カルボナーラ 1食あたり
飽和脂肪酸:104.4kcal
n-6系脂肪酸:2.76g、n-3系脂肪酸:0.20g
・サラダのドレッシング
飽和脂肪酸:10.8kcal
n-6系脂肪酸:0.60g、n-3系脂肪酸:0.05g
●おやつ
・くるみ 2つ(6g)
飽和脂肪酸:3.7kcal
n-6系脂肪酸:2.48g、n-3系脂肪酸:0.54g
●夕食
・鮭の塩焼き 切り身1切れ
飽和脂肪酸:5.1kcal
n-6系脂肪酸:0.08g、n-3系脂肪酸:0.64g
・ソテー
飽和脂肪酸:0.7kcal
n-6系脂肪酸:0.22g、n-3系脂肪酸:0.07g
【合計】
飽和脂肪酸:131.2kcal
n-6系脂肪酸:8.6g、n-3系脂肪酸:1.8g
実際の食事ですと、ここに白飯やお味噌汁、野菜などが入ってくるので多少は増えると思います。
脂質を多く摂っていないつもりでも、カルボナーラで使用している生クリームやベーコンなどの動物由来のものが含まれていると、飽和脂肪酸の摂取量が増えます。くるみも意外と脂質が多く含まれているので、食べすぎには注意しましょう。
なお、今回は肉料理が出てこなかったので、肉に含まれる脂質についても記します。
・牛もも肉 100gあたり
飽和脂肪酸:62.3kcal
n-6系脂肪酸:0.73g、n-3系脂肪酸:0.03g
・豚バラ肉 100gあたり
飽和脂肪酸:131.4kcal
n-6系脂肪酸:3.32g、n-3系脂肪酸:0.18g
・鶏もも肉(皮つき)100gあたり
飽和脂肪酸:51.0kcal
n-6系脂肪酸:2.66g、n-3系脂肪酸:0.12g
まとめ
脂質に関しては研究しきれていないことも多くあります。
脂質は悪者ではなく一部は身体にとって必須栄養素であること、食品によって含まれる脂質の種類が違うことを知っておいてもらえれば幸いです。
脂質が含まれている食品は、同時にたんぱく質が豊富に含まれているものが多いので、一つの栄養素だけでみるのではなく、全体の栄養バランスをみていくことがポイントです。
この辺りは後日お伝えしていきます。
おまけ
コレステロールとトランス脂肪酸について少し触れたいと思います。
食事で摂取するコレステロールの量は体内で作られる量の1/3~1/7ほどです。ですので、食事で摂ったものが血液検査のコレステロール値にそのまま反映されるわけではありません。血液検査の結果をみたときに、もしコレステロール値(LDLコレステロール)が高いようであれば、コレステロールよりも飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂りすぎを疑ってみた方がいいかもしれません。
トランス脂肪酸は飽和脂肪酸と同じく心疾患(冠動脈疾患)の危険因子の一つとなっているものですが、その影響は同じ量の飽和脂肪酸の2倍ほど大きいといわれています。トランス脂肪酸は主にショートニング、マーガリンに含まれています。WHO(世界保健機関)の基準に比べて日本人の摂取量は多くない(1日の摂取エネルギーの0.3%)ものの、できるだけ摂取量を低くとどめることが望ましい、とされています。
以上、参考になればうれしいです。
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今回の内容をより詳しく知りたい方は、以下をご確認くださいませ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
https://www.youtube.com/watch?v=8qJTJQz95LA&t=4s
厚生労働省/MHLWchannel 「日本人の食事摂取基準(2020年版)研修会(講義1 ①策定について ②活用について) 約47分
https://www.youtube.com/watch?v=WjPqTLfqxBY&t=1401s
厚生労働省/MHLWchannel 「日本人の食事摂取基準(2020年版)研修会(講義2 ①エネルギーについて ②エネルギー産生栄養素等について) 約56分
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h28-houkoku.html
平成28年 国民健康・栄養調査(日本人の食事摂取基準はこの年の調査結果を使用)
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