炭水化物の微妙な立ち位置

こんにちは。管理栄養士のTany.(タニィ)です。
食と健康に関する、小難しい国の基準や法令をわかりやすく伝えていきます。

数回にわたり、日本人が摂るエネルギーや栄養素はどのくらいか?という話をしています。
参考にしているものは厚生労働省から出ている、「日本人の食事摂取基準」です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

今日のテーマは炭水化物です。

炭水化物のことを簡単に

話に入る前に、炭水化物とは何か?という話をします。
炭水化物はざっくり一言でいうと、エネルギーになる栄養素、です。
また炭水化物は役割によって“糖質”と“食物繊維”の2種類に分けることができます。

図1 炭水化物の分類

図

(1)糖質

糖質は消化酵素により分解されて、まさにエネルギー源となります。
脳や神経細胞、赤血球など、通常は糖質が分解されたブドウ糖しかエネルギー源にできない組織がありますが、特に脳は、体重の2%の重さであるにもかかわらず、基礎代謝量(動かなくても消費する1日あたりのエネルギー量)の20%を消費しています。基礎代謝量は30-49歳女性で約1,150kcalとされていますので、そのうち230kcal=ブドウ糖57.5gを脳だけで使う計算です。贅沢三昧ですね。

(2)食物繊維

食物繊維は腸内細菌によって発酵分解されて、微々たるエネルギーを生み出します。そして食物繊維を多くとることが生活習慣病の発症予防と関連しているといわれています。普段の食事ではエネルギー量としてのカウントはしません。

炭水化物はどのくらいとればいいの?

繰り返しになりますが、炭水化物(特に糖質)の役割はエネルギー源です。
ただし、エネルギー源になる栄養素は他にもあります。たんぱく質と脂質です。
ですから炭水化物の摂取量の考え方は、
”たんぱく質と脂質だけでは不足するエネルギー量を炭水化物で補う”です。
栄養素としては優先順位の低いイメージがついてしまいますね。それでも表1の通り、1日の摂取エネルギーの50-60%という目標量が出ています。
例えば2,000kcalを摂取する20代の女性で考えますと、50%で1,000kcal、60%で1,200kcalのラインです。
白飯1杯150gを1日3食とると、約760kcalとなります。
それ以外にジャガイモやサツマイモ、くり、小豆、タピオカなどのでんぷん、砂糖の含まれた菓子類など糖質を摂取する機会は多くあります。

食事摂取基準の中では、炭水化物の摂取については質にも配慮し、精製度の高い穀物や甘味料、甘味飲料に過度に頼りすぎないこと、としています。

表1

炭水化物

(1) 糖質
必要量は少量あると考えられていますが、把握はできていません。なぜなら、糖質が不足していたとしても体内のアミノ酸や脂質からエネルギーを作ることができ、過剰にとっていても脂質と同様に体内に溜められるため過不足が把握しにくい、ということがあるからです。よって必須量も上限量も決められていません。

ただし、糖質の中でも糖類(ブドウ糖、砂糖など)の過剰摂取は肥満や虫歯の原因となるということもあり、WHO(世界保健機関)では、総エネルギーの5%未満にとどめることが望ましい、としています。
これは、1日の摂取エネルギーが2,000kcalだとすると100kcal未満、砂糖に換算すると25gです。料理や加工品に含まれているものを合算しての数字なのでイメージしづらいかもしれません。                 グラニュー糖だとスティックシュガーの細いもので8本、太目のもので5本分くらい、上白糖で大さじ3杯までです。500mlペットボトルの炭酸飲料や清涼飲料を毎日飲んでいる方がいらっしゃったら、それだけで総エネルギーの5%を超えているかもしれません。

(2) 食物繊維
食物繊維は糖質と異なり、多く摂取することによって心筋梗塞や脳卒中、循環器疾患、糖尿病等の生活習慣病の発症率が下がる、という研究結果が出ています。
それにより海外の食事摂取基準では14g/1,000kcalを採用しているところがあります。日本でもそのくらいの基準を設けたいところですが、平成28年の国民健康・栄養調査によると、現状の日本人が摂取している食物繊維量の中央値は以下の表2のとおりです。

表2 食物繊維の摂取量(g/日)

画像3

一日の摂取エネルギーが2,000kcalだとすると、本当は28g摂りたいところではあるけれども、全然足りていないです。
そこで現実味のある目標として、日本では表3の通りに設定しています。
したがって食物繊維の摂取量については、目標量が摂れていたとしても、生活習慣病を予防する、という考え方からみると喜べる状況ではなく、もっと上を目指す必要があるということです。
ちなみに、食物繊維量は、
ごぼう1本(150g)あたり7.7g
かぼちゃ1/8個あたり4.0g
レタス1/4個あたり1.4g 等、野菜の種類によって様々です。
ダイコンやカブの葉、山菜、菜の花には多くの食物繊維が含まれています。
現代の食生活ですと食事摂取基準の目標量分を摂取するにも一苦労あるかと思いますので、白米を半つき米や玄米にしてみる、葉や皮で捨てていた部分を食べてみるなど、“ちりも積もれば・・・”の考えでコツコツやっていくのが大切かと思います。

表3

食事摂取

さて、今回まででエネルギーを生み出す栄養素のたんぱく質、脂質、炭水化物を扱ってきました。
摂取エネルギーは体重の増減に直結するので気になるところですが、普段の食事を考えるときにはどの栄養素からどのくらいとるかのバランスも気になるところかと思います。
次回は、その部分を扱っていこうかと思っています。

おまけ

食事摂取基準ではアルコールは炭水化物と一緒に解説されています。お酒は穀物や果実を発酵させてできていますが、その原料の栄養素を摂取したことにはなりません(栄養素はほとんど入っていません)。

アルコールに含まれるエタノールは、1gあたり7kcalです。
なおエタノール10g/日を超える飲酒は健康被害のリスクであるとして注意喚起されており、死亡率を低く保つための上限量は100g/週となっています。
例えばアルコール5%の缶ビール1本(350ml)あたりのエタノール量は,
350ml×0.05(5%)×0.8(エタノールの水に対する比重)=14gです。

お酒を飲んだ後に〆のお茶漬けやラーメンが食べたくなるのは、エネルギーは入ってきているものの、栄養素(炭水化物)が入ってきていないからです。                                したがって、ご飯を食べる代わりにお酒を飲む、という考え方はエネルギー量のつじつまはあっても、栄養素で見た時にはあっていません。

以上、参考になればうれしいです。

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今回の内容をより詳しく知りたい方は、以下をご確認くださいませ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

https://www.youtube.com/watch?v=8qJTJQz95LA&t=4s
厚生労働省/MHLWchannel 「日本人の食事摂取基準(2020年版)研修会(講義1 ①策定について ②活用について) 約47分

https://www.youtube.com/watch?v=WjPqTLfqxBY&t=1401s
厚生労働省/MHLWchannel 「日本人の食事摂取基準(2020年版)研修会(講義2 ①エネルギーについて ②エネルギー産生栄養素等について) 約56分

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h28-houkoku.html
平成28年 国民健康・栄養調査(日本人の食事摂取基準はこの年の調査結果を使用)

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