健康に無関心な層へのアプローチ~ナッジの活用~
こんにちは。管理栄養士のTany.(タニィ)です。
食と健康に関する、小難しい国の基準や法令をわかりやすく伝えています。
日本の現在の国民運動について話す中で、「健康寿命を伸ばすこと」を繰り返し伝えてきました。
ここまでしつこく言うのは、これが健康日本21(第二次)の中だけで目指すことではなく、
2019年に厚生労働省から健康寿命延伸プランとして、2040年に向けての取り組みも計画されていることがあります。
健康寿命延伸プランの概要: 「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめについて」より抜粋
その達成のために、従来から行っていることも大切にしながらも自然に健康になれる環境づくりや行動変容を促す仕掛けなども活用していく、とあります。
前々回からお伝えしているとおり食習慣も含めた生活改善に無関心な方が一定層いることから、全体の健康寿命を底上げするためには意識の高い層だけでなく、無関心層にも働き掛ける必要があります。
今はそのための仕組みを食環境づくりに折り込んで、より多くの人の健康づくりにつながるようにしようという流れになってきています。
今回は、そこにまつわる話として行動変容を促す「行動経済学」と「ナッジ」の考え方を紹介していきたいと思います。
健康づくりにまつわる施策ではもちろん、営業やマーケティング等にも活用されている考え方ですので、ぜひ普段の仕事や子育て等にも生かしてみてください。
行動経済学の考え方をざっくりと
もともと経済学では、‘人間は常に合理的な判断をするものだ’という前提で物事を考えています。
最小限のコストで最大限の利益(満足感)を得るためにどうするかを適切かつ迅速に検討、決定し・・・
確かに人間にはそう考える傾向があると思いますが、常に合理的に考えて動いている人ってきっと多くはないのでは?と思います。
例えば、「体重が気になっているから甘いものをやめるって決めていたけれど、目の前に美味しそうなケーキを出されて、つい食べてしまった。」「仕事の進め方を計画していたけれど、結局やる気になれず、直前になって慌てて取り組み始めた。」など、人間には感情があり、時々合理的でない行動をします。私自身も多分にあります。
行動経済学は、そんな人間くさいところも含めて捉えていこうとする学問です。
ナッジとは?
ナッジ(nudje)は、’そっと後押しをする‘という意味の英語です。
上の図のように、赴くままに前進して行き詰まりそうな小ゾウに対し、親ゾウが後ろから方向を示す合図を送るようなイメージです。
強制するわけではなく、だからといって放任するわけでもない、というところがポイントです。
先ほどの行動経済学の考え方であった、頭ではこうしたほうがいいとわかってはいるけれども、行動が伴わないものに対して、ナッジ理論を活用して自然と望ましい方向へ進めるように選択肢を示す、ということです。
すでに身近で取り入れられているものが多くありますので、紹介していきます。
1、ポイントをもっと貯めたい!電子マネーがもらえてお得。
アスマイルは大阪府民の健康をサポートするアプリです。健康に関する行動を記録していくことによってポイントがもらえ、たまったポイントに応じて電子マネーと交換できたり、ポイントを使って抽選に応募できたりします。実際に電子マネーが手に入ったり、プレゼントが当たったりすることでさらに動機づけされ、健康行動が促進されます。
こちらは金銭等を使った動機づけですが、次の事例では、社会的な承認を得られることが、行動の動機づけになっています。
2、周りから見られている気がするから、ちゃんとしよう。
こちらは新型コロナウィルス感染拡大防止対策で、トイレの手洗い場でせっけんを使う人を増やすために、宇治市役所の本庁舎で行われた取り組みです。ビル内にあるトイレにこのポスターを貼ったところ、せっけんの使用量が増える、という結果が出ました。
他人の目を気にして自分の行動を顧み、社会的に良いとされているルールを守ろうとする心理が働くようです。
1、2の考え方は「インセンティブ」として、「行動経済学の活用」とともに、健康寿命延伸プランに書かれています。
3、なぜか整列してしまう。
今ではスーパーやコンビニ等の会計待ちの列でフィジカルディスタンス(ソーシャルディスタンス)を保つために活用されているところが多くなった足跡マークです。この足跡のマーク通りに必ず並ばなければならないというわけではなく、距離の基準点としてつけているのですが、足跡があるとその通りに並んだ方が心理的に気持ちがよく、ずれて(例えばある人が足跡マークの横などに)並んでいる人を見ると、もやっとしてしまうようです。
食事でいうとワンプレートのお皿上で主食、主菜、副菜を盛り付ける位置を決めておくこと、が挙げられます。
食事でいうとワンプレートのお皿上で主食、主菜、副菜を盛り付ける位置を決めておくこと、が挙げられます。
上記の図では、主食(ご飯)、主菜(ハンバーグ)、副菜(サラダ)、汁物がすべてついた状態のものですが、いずれかが欠けた状態を想像してみてください。
ぽっかり空いているところがあると不自然に感じ、埋めたくなるという心理をうまく利用することでバランスの良い食事に近づけるようにします。
そんな些細なこと・・・!と思われるかもしれませんが、こういった小さいことの積み重ねが大切なんです。
4、食べないと、損!損は絶対いや!
あるハンバーグ・ステーキレストランでは、ハンバーグやステーキを注文すると、無料のサラダバーがついてきます。
提供までの間にサラダを食べてもいいし、目的のハンバーグやステーキだけを美味しく食べてもいいのですが、サラダを食べないと損をしているような気持ちになり、自然と野菜をたっぷり食べることになる、ということがあります。
これは、人は損失を避けることを強く意識する傾向があることを示しています。
逆に食べる量を控えたいと思っている人は、ビュッフェやケーキバイキングは要注意です。
食べないと損!という気持ちになりやすいため、食べすぎてしまうことがあります。
今回は4つの例を紹介しましたが、他にもさまざまな考え方のものがあります。
医療に関することが多いですが、厚生労働省作成の「明日から使えるナッジ理論」にもナッジを活用した事例が記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000506624.pdf
明日から使えるナッジ理論
健康寿命延伸プラン上では、個人に対する食習慣、健康診断・がん検診の受診勧奨のため、自治体等に対する制度の整備、サービスの利用促進のためにナッジやインセンティブを活用しています。
またそれらは厚生労働省だけが言っているわけではなく、内閣官房 成長戦略フォローアップでも言われています。
内閣官房 成長戦略ポータルサイト 成長戦略フォローアップ(令和2年7月閣議決定) 概要全体版より抜粋
2枚で完結する話で1枚目だけ載せるのは不自然な感じがしたのでこちらも。
よってナッジやインセンティブの考え方を理解し、どういった方向に導くために活用されているかを考えることで、相手の目的が見えてくるかもしれません。
以上、参考になれば嬉しいです。
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≪参考資料≫
厚生労働省 第二回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部 資料(令和元年5月)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000513520.pdf
厚生労働省 明日から使えるナッジ理論
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000506624.pdf
おおさか健活マイレージ アスマイル
https://www.asmile.pref.osaka.jp/
行動経済学のナッジが消毒・手洗い行動に変容を及ぼす効果の検証について
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/renrakukai16/mat_02.pdf
内閣官房 成長戦略ポータルサイト 成長戦略フォローアップ(令和2年7月)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/portal/follow_up/
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