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「地下鉄道〜自由への旅路〜」閲覧注意 辛いけど観てよかった

先日、このドラマを観終わりました。

「地下鉄道 〜自由への旅路」

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あらすじはこちらをご覧ください。

5月にAmazonプライムで配信がスタートしたこのドラマ。原作はピューリッツァ賞を受賞した有名な小説らしいのですが、私は原作についてほとんど知らないまま見始めました。

普段は奴隷制度時代の作品は観ません。辛くて仕方ないからです。

過去、あまりにも辛く途中で鑑賞をやめた映画もありました。(アカデミー賞をとった作品ですね。思い出すのもキツい)

なのでこの作品もなかなか腰が上がらず、配信始まってからも観始めるのに時間がかかりましたが、観ようと決めた理由はただ一つ。

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バリー・ジェンキンスが監督だから。

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アカデミー賞を獲得した「ムーンライト」を監督した注目の監督。私は特に「ビールストリートの恋人たち」が絵も演出も大好きで、新作を楽しみにしていた監督でした。

しかし、南部奴隷制度時代の話。しかもドラマと知ってだいぶ迷いました。。。全10話。

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こういうドラマは没入しすぎると、しんどくなりすぎて耐えられなくなります。酷い暴力と差別の物語です。まともに受け止めてしまうと苦しすぎてかなりダメージをくらいます。

先に書いておくと、やはり暴力・差別シーンはかなりあります。鑑賞には十分注意してください。

配信作品ということもあって、私は普段はしない行為を自分に許す事にしました。

どうしても辛いシーンは飛ばす。

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(バリー、ごめん。でも最後まで観るためだからお許しください。)

それをしても最終話まで見終わった後は引きずり、ダメージ大でした。二日くらいはかなりドラマのシーンを思い出したりしてました。

けど、タイトルにあるとおり、「観てよかった」と思える作品でした。感想を書いてみたいと思います。

※ここから先は思いっきりネタバレしてますので、結末等知りたくない方はお気をつけください。

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1話の冒頭近くから、もう辛いシーンの続々です。主人公の女の子コーラや子供に対するムチ打ちのシーンや、逃亡者に対するもう正視できないような制裁のシーン。本当に酷いです。「これは観続けられないかもしれない」と思いながら観た1話のラスト。

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実際に鉄道が現れて乗り込むところで「どうなるんだ」という混乱と、話の最後にタイトルと同時に流れたヒップホップにびっくり!!

これには本当に驚きました。でもバリー・ジェンキンスなら当然でもあり。「ムーンライト」でもヒップホップやR&Bを使っての表現が話題でしたし。

音楽についてはこの事も含めて後に書きますね。

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主人公のコーラは、自分の働いてた農園からシーザーという青年と共に1話で逃げ出し、鉄道に乗って別の地へと移ります。そこでは今までの生活とは違い、服装も仕事も変わり、苦しみから解放されるかと思いきや。なんと白人が黒人に対して人体実験のような、人命や出生を操作する行為が行われたり(サウス・カロライナ)、地をまた移れば今度は黒人自体見つかったら公開処刑されるようなところにたどり着きます。(ノース・カロライナ)

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行く先々地獄しか無い展開という流れに3話で気付きました。。。コーラがあらゆる黒人差別の生き地獄を体験していく話の構造で。逃げても地獄しかない。けど生きるために逃げるしかない。実際にあった事だというのでますます辛く。。。

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主人公コーラを演じたスソ・ムベドゥはもうすぐ30歳らしく、恐らく20になるかならないくらいのコーラを見事に演じきっていました。小さくても確かな生命力と辛い目に遭い続けても生き延びる逞しさ。いつ折れてもおかしくないのに、絶望しても生きるしか無い状況を強さだけじゃなく、弱さも持って演じていたと思います。

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コーラと共に逃亡する青年シーザーを演じたアーロン・ピエールも良かったです。シーザーは読み書きができるのを隠しています。雇い主から脅威とみなされるんですね。2話で捕まる時の緊張感、けど自分に誇りを持つシーザー。顔が印象的で「いい役者だな」と思いました。


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また、コーラを元いた農園から追ってくる、逃亡した奴隷のハンターを仕事にしているリッジウェイという男からの逃亡劇でもあるので、ドラマの緊張感は倍増します。リッジウェイを演じるのはジョエル・エドガートン。上手いに決まってるから!冷酷にコーラを追いつめる役で、ただでさえ怖いのに、背景にある父への歪んだ思いがさらに重く。間違いなく彼の最高の演技だと思います。今回は凄く力が入ったんじゃないでしょうか。

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リッジウェイに育てられ、黒人の身でありながらリッジウェイと共に逃亡奴隷を追いかけて捕まえるホッジ。彼はいったいいくつなんだろうか。凄く肝が据わった演技で驚いてしまうのですが、明らかに子供。陰惨なシーンもあって、役者の彼が心配になるくらいでした。けど彼がいる事で黒人の置かれている立場が複雑であることも描かれています。演じるチェイス・ディロンはこれからかなり活躍しそうな気がします。このドラマで1、2を争うインパクトと演技でした。「ピアノレッスン」のアナ・パキンみたいだな。

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映画「デトロイト」で最悪だった白人警官を演じたウィル・ポールターは、このドラマでは奴隷黒人の逃亡を手助けする役でした。彼も彼なりに信念あってこういう差別を描く作品に出てるのかもしれないですね。少ない出番でしたけど、印象に残りました。

役者については書いてたらキリがないのでこのへんにして。

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やっぱりバリー・ジェンキンスについて書きたいんです。「ムーンライト」から絵の美しさと時代・現実の過酷さの対比が非常に胸に残る演出で注目の監督だと思ってましたが、「ビールストリート〜」を経て、今回のドラマで「巨匠への道を間違いなく歩んでるな」と思いました。

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なんていうか、彼だけしか撮れないような色彩や構図、画面から伝わる緊張感と温かさが宿ったような淡いけど鮮明な絵の素晴らしさ。なんとなくスチール写真を観ただけで誰が監督したか分かるような個性ができてきてる気がします。

私は人物の後ろ姿や振り返りのシーンが印象に残ります。

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そして、黒人が置かれてきた理不尽な差別、過酷な現実、苦しみから目を逸らさずに伝え続けてきた点は凄いと思いました。今回はその最たる作品だったと思います。

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話が進む毎に絵の力が増していきます。絵が美しいからこそ、余計悲しく辛く感じるところもあるかもしれません。最終話のエンドロールは圧巻です。言葉も出ませんでした。

そして先にも書いた音楽の使い方。毎話のエンドロールに流れるヒップホップやR&Bは凄いです。これは好き嫌いはあるかもしれないですが、私は凄く良いと思いました。またこのドラマのために作った曲じゃないのが凄くいいなと思って。私はアウトキャストが特に頭に残りました。チャイルディッシュ・ガンビーノの「this is America」なんて何回も聴いてるはずなのに、このドラマでまた全然印象が変わって、ドラマが終わったあと何回もリピートして聴きました。今の今に至るまでずっと歌は作られ続けてきたんですよね。

そういうことに気づかせてくれるのも、バリーの個性だと思います。

ニコラス・ブリテルの劇中音楽も素晴らしいです。

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ラスト10話はコーラが自分を置いて逃げたと怒りを募らせていた母の物語が語られます。それもまた壮絶で。。。けど、描かれてよかったと思いました。やりきれないし、コーラは知ることはないと思うけど、視聴者には伝えてくれます。原作にもあるのかな?

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本当に辛く、しかも現代まで終わりのない苦しみの物語。ラストまでなんとか観れたのは、絵や音楽、演技の素晴らしさ。そして、痛みや絶望を描きながらも先に繋がる微かな光を感じるようなバリーの話の運び方かなと思います。

本当に辛いドラマなので、見返すことはもうできないかもですが、観てよかったです。

おまけ セラピストが常駐したシーンもあったらしい。

おまけ

この落ちるシーン。あまりに美しくドキドキした。

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