「パスト ライブス/再会」 出来れば映画館で観てほしい!小規模映画だからこそできる 美しさと余韻が満載の大おススメ作品!
先日、この映画を観ました。
「パスト ライブス/再会」
あらすじ等はこちら
昨年アメリカのサンダンス映画祭で絶賛を浴び、公開されると口コミで評判が広がって上映館数が拡大したという、非常に評判が良かったこの作品。
今年の映画賞レースでも高評価が続き、作品賞と脚本賞にノミネートされました。
私も日本で公開されるのを楽しみにしていたので、「絶対に観に行く!」と決めていました。そして早速観に行ったわけなのですが、
もうめっちゃ泣いたわ!(笑)
平日朝イチの回で人も少なかったので良かったのですが、もうエンドロールで何とか泣き止むように心を落ち着けるのに必死でした!
同じ回を観ていた3人組のおばちゃんたちの「テオ良かったわ~」という声で、やっと正気に戻れて良かったのですが(笑)。
この映画は「できれば映画館で観てほしいな~」と思いました。
というわけで、どこらへんが私にぶっ刺さって号泣に至ったのか、私なりの感想を書いてみたいと思います!
※ここから先は思いっきりネタバレしてますので、結末を知りたくない方はご注意ください。
まず私がこの映画を「映画館で観てよかったな~」と思ったポイントなのですが、
この映画、観る前の予想よりも映像美がとても感じられる作品でした。でも、その美しさは「高画質で撮られた鮮明な美しさ」というよりは、
セピアが混じったようなちょっと茶色みというか黄味というか、独特の色みがかった映像で、質感もどこかざらついているような感じで。
それが不思議なんですけど、一番過去にさかのぼる子供時代が一番鮮明で、そこから時間が進んでいくほどくすみが増して、現在のニューヨークの映像になると一番ざらついて見えるようで。でも、そのざらつきが強まるほどなぜか美しく、心に残るようでした。
最近の映像ってiphoneのカメラですらめちゃくちゃきれいに鮮明に映像を撮れるので、逆に登場人物の肌色すらくすませる独特の色味が私にはとても心に残りました。
家に帰ってスマホのYouTubeで予告編を観なおすと、映画館で観てた時より若干映像が鮮明になってしまってて。そこで気づいたのが、
「映画館のスクリーンで観てこそさらに美しい映像だったんだ」と。
しかも、大きなスクリーンではない、小さめのスクリーン。そこまで撮影を担当したシャビアー・カークナーが計算していたかは分かりませんが、でも彼や監督のセリーヌ・ソンが持つ独特の美観かもしれません。
この音楽もまた絶妙で、はっきりとメロディの輪郭はないけれど、あらゆる楽器の音を使って、キラキラとしつつどこか儚い音楽が印象的で。ピアノもあればギターもあり、電子系の音もあれば、管楽器の音もあり。映像やシーンとっても相性が良くて、でも映画の流れをそっと支えるような音楽の効果もしっかり感じられました。
やっぱり音楽もはっきりと鮮明というより、「どこかぼんやりした魅力が心地よいな」と思っていて。
担当したのはクリス・ベアーとダニエル・ロッセン。
名前を見ただけで気づく人は世代が分かりそうですけど(笑)、
00年代にデビューしたアメリカのインディロックバンド「Grizzly Bear」のメンバー二人です。「懐かしいったらないな」って感じですが。恐らく初めて映画音楽を手掛けたのではないかと思うのですが、これは「映画音楽作家として最高のスタートを切れた」と思いました。この音楽もまた、繊細な部分まで浸れるのは映画館だと思います。
エンドロールでかかる女性のゆったりとしたバラードは、これまたインディロック界で人気のシャロン・ヴァン・エッテンの曲。もうアメリカのインディロック好きにはたまりませんね(笑)。とーってもセンスが好みでした!
ストーリーやシーンのすくい上げ方もさることながら、こう言った映像や音楽など、あと衣装(ノラのニューヨークでの衣装が好きすぎる)も含め、センスの良さ、しかも小規模作品ならではの美しさに満ち溢れていて、私はこの作品をシネコンで観たのですが、00年代の自分が10代終わりから20代によく通っていたミニシアターの映画館で作品を観ているような気持ちになりました。
それだけで、結構グッとくるものがあって。
そして、この作品は話の筋だけでいうととてもシンプルなのですが、上のような映画の一つ一つの要素がとてもセンスが良く、役者の三人も ノラを演じたグレタ・リー、ヘソンを演じたユ・テオ、ノラの夫を演じたジョン・マガロ。三人それぞれが、見事な演技を見せています。
グレタは主に海外ドラマでキャリアを重ねた女性のようで、この作品のように両親は韓国人、彼女自身はカリフォルニアで生まれてずっとアメリカ育ちだそうです。この役にとても近い育ち方をしている彼女はピッタリで、私は感情移入がとてもしやすかったです。
アメリカで育ってきた彼女の佇まいが、ノラの役に説得力を加えていました。
ヘソンを演じたユ・テオは韓国の俳優ですが出身はドイツだそうで、賞レースのレッドカーペットでは流ちょうに英語を話していて驚きました。とても体が大きくてカッコよいのですが、ノラに比べてどこか子供っぽさがあるような、それでいてアジア育ちならではの落ち着きがあるようなキャラクターを自然に演じていたと思います。
「実は一番演技が大変だったかも」と思わせるのはノラの夫を演じたジョン・マガロ。いろんな映画に脇役として出演してはちょっとずつ印象に残る役を演じてきたところに、この役で見事な存在感を見せていました。
妻のノラにわざわざ異国から会いに来たヘソンに対する複雑な気持ちの表現や、ノラとの会話で彼女を愛していることや、安心感と不安の間を行き来する心の揺れが彼にもあることを表現しつつ、主演の二人を邪魔することない演技が最高でした。
この映画は詰められた話の筋ではないので、余白がありつつも、表現の細部のどこに気づいたり共感できるかも人それぞれだと思うのですが、私が分かるポイントでいうと
12歳のノラは韓国のどこにでもいそうな活発そうなかわいらしい女の子、
24歳のノラはアメリカ住まいに変わって服もピッタリとした時代を感じるTシャツで、髪も艶があってまっすぐで美しいのですが、
36歳のノラは初恋の彼に会いに行くのに髪はちょっとボサっとしていて、服もダボッとしたシャツ。でも年齢をかさねたこその余裕があって。
そこで二人が出会う韓国の町の一角から、それぞれの国で24歳に住む部屋、そして36歳で再会するのは世界有数の大きな街ニューヨーク。
この対比もとても良かったです。
監督したセリーヌ・ソンは36歳。彼女の実体験を基にした映画で、この作品が初監督。とてもそうとは思えない程、落ち着いた作風で見事です。
この作品はアカデミー賞で脚本賞の候補になっているのですが、話の筋自体はとてもシンプルじゃないですか。これを「どうやって企画を通したのかな」と思いました。
出来上がった作品を観れば、とても優秀な監督だと分かるのですが、この作品はアメリカと韓国と合作映画で、韓国はともかく「アメリカでこの映画の制作をやり通すのは大変だったのではないかな、」と思いました。
世界的に評価がますます高まっているとはいえ、アジア系、ましてや女性監督はまだまだ少ないだろう状況で、この作品を作ってくれたことに本当に時代の流れと彼女への感謝を感じました。
最後に。とても個人的な話になってしまうのですが、映画のラストでヘソンをウーバーに乗せて別れたノラが、アパートの階段で待っていた夫アーサーの前で号泣して、アーサーの肩で慰めてもらうシーンがあるのですが、それを観て自らの体験を思い出して。
夫と結婚して一緒に住むアパートへ、母と二人で暮らしていた実家から引っ越しをした翌日。日曜日でした。
夫と二人で部屋の片付けなどをしている時に、ふとなぜか私が涙が止まらなくなってしまって、ノラのように号泣してしまって。まさにアーサーのように、夫の肩を借りて泣きじゃくってしまって。
その時の気持ちや涙の理由は一言では言い表せないし、自分でもはっきりと言語化はできないけれど。
次の日は目が腫れて、会社に行くのが恥ずかしかったです。
ラストシーンでその時のことを思い出したらまた涙が止まらなくて、だからエンドロールで大号泣する羽目になってしまったのですが(笑)。
私にとってはこの映画は、いわゆる「恋愛映画」というよりも、自分の人生で経験してきた人や街との出会いと別れや、その時々で感じてきた感情を優しく紐解いて、そういう経験を重ねてきた今の自分や周りの人たちを美しく感じさせてくれるような作品でした。
気になった方はぜひ観てみてください♪
おまけ
これ見てますます泣いたよー!!(泣)
おまけ2
こんな曲もあったな、、、。
おまけ3
監督セリーヌ・ソンの旦那さんは、もうすぐアメリカで公開が話題の「チャレンジャーズ」という映画の脚本家だった!この夫婦、映画界のゲームチェンジャーになるかも?
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