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ゲーム屋人生へのレクイエム 76話

会社存続の為に稀有な人物をセールス担当副社長として雇ったころのおはなし

「販売代理店からメールが届いたんだ。セールスが出張してくれてよかった。ありがとう。という謝礼メールだったんだけど、そのメールの中の一文に俺の目はくぎ付けになったんだよ」

「何て書いてあったんですか?」

「セールス担当のワイフにも会う事が出来てよかった。と書いてあったんだ」

「え?という事は・・・」

「セールスは奥さんを連れて出張している。そして代理店挨拶にも連れて行っている。目を疑ったよ。仕事だよ。なんで嫁を連れて仕事の出張に行くのか全く理解できなかったよ。

それでセールスに電話して問いただしたんだ。奥さん連れて出張しているのかって。そしたら何も悪びれた素振りもなくそうだよって言ったんだ。それで、仕事なのになんで奥さん連れて行ったんだって聞いたんだ。すると連れて行きたかったからって言うんだよ。普通なのよ。何もおかしなことしてないって感じで。それで俺が今後は連れて行くなって言ったんだ。そうしたら何でだめなんだって逆に俺に聞いてくるんだ。俺は出張に関わる経費はあなたの旅費しか払わない。奥さんの飲食費やらなんやらは一切会社の経費には認めないって言ったら、そうなんだ、わかったって言ったんだよ」

「ある意味すごいひとですね。いったい今までどうやって生きてきたんでしょうね」

「うむ。俺もそこが知りたかった。こんな人がこの世に存在するんだって。とんでもない人を雇ってしまったんじゃないかって寒気がした。

立場上はこの人が副社長で俺はマネージャーだから部下ということになるんだけど、こんな人を放置しておいたら会社はとんでもないことになるって猛烈に不安を感じたんだよ。

それで出張から戻ってきたセールスと話をしてどんなことでも彼の独断では決裁できないように彼の同意のもとルールを作ったんだ」

「よく同意しましたね」

「ふたりで決めたら責任も半分になるでしょって言ったらそうだねって言って同意したんだよ」

「ものすごくわかりやすい説明ですね」

「何と言えばいいんだろう。何だか子供とはなしをしているような妙な感覚なんだよ。穢れを知らない、まっすぐというか、純心というか、常識というものを知らずにどこかに何十年も隔離されて子供のままの心で大人になったような人とでも言うべきだろうか」

「セールスとしてはどうだったんですか?売ってくれたんですか?」

「そう。そのことを話さないといけないな。彼の武勇伝はまだまだこれからだ」

続く


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