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ゲーム屋人生へのレクイエム 74話

「それでセールスは見つかったんですか?」

「それが最初はゲーム業界経験者のセールスに絞って探していたんだけど、さっぱり見つからなくてね。

時間ばかりが過ぎてさ。セールス不在のまま4カ月ほど経った頃に本社のMさんから電話があったんだ。

「セールスは見つかったのか?」

「それがまだ見つかりません」

「このままじゃまずいぞ。早くなんとかしないと社長がしびれを切らしているぞ。ひと月以内にセールスが見つからなかったら会社を閉めると言いだしたぞ。本社からの仕送りにも限度がある。こっちだって厳しいんだからな」

「わかってます。ひと月以内に見つけます」

という感じのやり取りだったんだが、ひと月で見つけるとは言ったものの、あては無くってね。このままいけば会社は閉鎖。また失業することになる。何としても避けなければならないって思ってね。

今から思えば大きな間違いだったよ」

「何が間違いなんですか?」

「この本社からのプレッシャーで本来の目的を完全に見失ってしまったんだ」

「どういうことです?」

「ゲームを売ることを業務とするポジションを探すことから、会社を閉鎖されないための人材を探すに変わってしまったんだ。もっと簡単に言えば、セールス経験者なら誰でもいい。とにかくこの空席を1日も早く埋めなければならないという方向にしてしまったんだ。

それで友人とまではいかないけど何度かあったことのある人物が大手小売りとの商談を経験しているって事だけで候補に選んで採用したいと本社に伝えたんだ」

「採用したんですか?」

「本社では実績がわからないし経験も不足しているんじゃないかと反対の声も上がったんだけど、俺がサポートするからと懇願したら了承されたんだ」

「本社が心配するのもわかるような気がしますが。大丈夫だったんですか?」

「さっきも言ったけど、会社を閉鎖させない為にはこうする他に道は無いと当時の俺は信じるしかなかったんだ。やってはならないことだったと今では思うけど。

それでこの人物を採用したんだ。俺よりも歳も上だし、マネージメント経験もあるってことで俺の上司で副社長として迎えることにした」

「あれ?社長代理じゃなかったでしたっけ?」

「そのポジションから降りた。会社再建の目途が立つまでの仮のポジションだったからね。閉鎖は回避されたし、俺は商品探しに集中しなければならないからね」

「保留になったプロジェクトはどうなったんですか?」

「本社の社長からの指示でゲーム業界未経験者が社員3人のうち2人ということで、難易度の高いプロジェクトは中止にした。それでゲームボーイ向けのタイトルをいくつか候補に残してライセンス交渉を続けることにしたんだ。

その間に副社長は全米に点在する販売代理店にあいさつ回りをして今後のビジネスについて説明する出張に出たんだ。

そして彼を採用したことに疑念を抱くことが起きたんだ」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません

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