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公務員の議員への接し方

先日、時季外れですが異動があり、長年やっていた議会関係ではなく、別の業務をすることになりました。

その理由もコロナがひと段落ついて、議会での質問が減ったこと、そして、他の所属で私の同年代の職員が足らないため、緊急的に補充が必要というものでした。異動は地方公務員の常ですし、特段不満はありません。

後任に引継ぎを行うにあたって、今の上司から「君の経歴は大変レアであるため、ぜひともしっかりと知見を残してほしい。」とコメントがありました。その時は、そうかな?と思ったのですが、改めて10年弱の自分が担当していた議会業務を振り返ってみました。

確かに、国や県から来たキャリアを除いて、30代そこそこで議員に接することは大変稀です。議会業務は、自治体の政策について議員と相対して議論するものなので、何を話すべきか判断が下せる階級の人が議員と対応します。

しかし、私が30代前半で赴任した部署は、コロナが蔓延する前から自治体の医療福祉施策の中心となる部でした。議会の会期中には議員から毎回多くの質問が寄せられることから、質問と答弁作成の進捗管理を行う人間が必要とされました。

そのため、質問を行う議員との勉強会に出席するなど、地方議会議員と自治体の幹部の施策に関わる議論を間近で数多く見ることができました。確かに異色の経歴です。

今回は、これまでの8年間で延べ百人以上の議員と接してきた中で感じた議員との接し方についてまとめたいと思います。

1 議員に対して一定以上の敬意は必要

小説やドラマ等では悪役に描かれることもある議員ですが、大多数の議員は非常にまじめで勉強熱心です。狭くない自治体の中、議会がある会期中は地元と庁舎を何時間もかけて毎日往復し、早朝から夜遅くまで仕事をしています。

加えて、休日は地元のイベントに参加し、この時期だと自治体内の小学校などの運動会に出ずっぱりで、関係者にあいさつ回りをしています。イベントがない時にも、支援者からの相談や、近所で困ったことがないか御用聞きに回るなど、土日もほぼない状況でしょう。

議員は高給だとは言われるものの、事務所にスタッフを雇ったりするため人件費は掛かりますし、色々なところを行脚するため交通費も多額になります。個人事業主と同じで、費用が多くかかることから資金にそんな余裕はないと聞きます。

加えて、選挙に落ちれば、ただの人になってしまいます。貯蓄があれば再チャレンジはできますが、選挙という自分でコントロールできないことに、自分の職業や地位を委ねるわけですから相当なプレッシャーでしょう。

それでも、議員になりたいという思いには、敬意を払うべきだと思います。少なくとも選挙に出馬することは自分にはできないことです。

また、議員の思いもしっかり受け取るべきだと思います。議員は選挙で選ばれた代表者であり、議員の後ろには、その人に投票した何千人もの住民がいます。

多くの人の思いを背負って、言葉を発していることになります。その言葉には注意深く耳を傾け、思いをくみ取る努力はすべきと考えます。

2 無理に合わせる必要もない

一方で、議員に全てを合わせる必要もないとも思います。我々地方公務員のトップは首長であり、首長もまた選挙で選ばれた多くの住民の代表者です。

首長の向いている方向と特定の議員の向いている方向が異なることはままあります。地方議会にも与党・野党はあり、首長肯定派とそうでない派は分かれています。

議員は自分の支援者のために動くことがあります。自分を選んでくれた人のために汗をかくのは自然なことです。一方で、その支援者が住民の多数派とは限りません。行政が進む方向と異なることがあります。

地方公務員は、首長の向いている方向が施策の向かうべきところになります。時には個人的な思いと異なることはあるかもしれませんが、組織の判断があったことに、属するものは淡々と実行することが必要です。

首長の判断と自分の思いが異なり、議員の向いている方向と似ていたとしても、行政に属する人間であれば、首長の判断に沿うことになります。それが職務であると同時に、自治体住民の多数が選んだ首長の判断は大勢の利益にかなうためです。

議会の仕事に就いた時に、当時の上司から助言を受けたことがあります。「議員と、どんなに波長が合うと思っていても、信頼しきってはいけない。」

予算との兼ね合いなどで、議員が絶対通したい施策を突っぱねなければいけない時があります。利益が相反するときもあり、それはどんなに気心が知れたとしても変わるものではありません。

敬意は払う必要はありますが、必要以上に、議員の思いに合わせることもいけないと思います。

3 10年弱議会の仕事をして思うこと

自治体の幹部でないのであれば、つかず離れずの距離がちょうど良いのだと思います。名前も覚えてもらう必要もないし、嫌われてもいないくらいが仕事をする上では良いのではないでしょうか。

私の自治体にも数十人の議員がいます。気難しい人、意見を曲げない頑固な人、気分屋な人、一人ひとりが個性的で様々な多様な意見を持っています。個人的に意見が合う人もいればそうでない人もいます。

総じて言えるのは、議員は大変エネルギッシュです。そして大多数の人は、自分の住む自治体を何とか良い方向に変えようと一生懸命動いている人たちです。

時に行政と対立することもありますが、議員に対して悪い印象を持ったことは多くありません。そういう意味では、議会の仕事に携わってきたこの10年弱は非常に充実していました。

普通の生活を送っていたら、こんなにも議員の方と接する機会はなかったでしょう。次に、こんな密度で議会に携わることになるのは、課長クラスに運よくなれたときです。そうなれるかは分かりませんが、とても貴重な経験でした。

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