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財政検証と年金

先日、5年に一度の財政検証、公的年金の長期的な財政の健全性を定期的にチェックするために行われる検証、が行われました。
将来の公的年金の財政見通し(財政検証) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

個人的な受け止めとしては、「コロナ禍を経た割には予想外に上手くいっている。」です。

せっかく5年に一度の機会なので、自分の勉強のために、今回の財政検証について思っていることをまとめてみます。

1 将来の年金を決めるものとは

財政の健全性を判断すると言っても将来のことなので、非常に不確実な事柄です。そのため、財政検証では3つの前提を置いて、それぞれの前提に上手くいったケース、悪いケースと幅広く分けて検証しています。

その3つの前提とは、①人口の前提、②労働力の前提、③経済の前提です。

(1)人口の前提

①の人口の前提は、非常にシンプルです。人口が多いということは、働く人が払う保険料収入や消費税を原資とする国庫負担が増えることにつながり、財政が安定します。

そして、この人口の前提は3つの要素(合計特殊出生率、平均寿命、入国超過数)から成り立っています。

最初の合計特殊出生率は分かりやすいです。新しく子どもが生まれなければ、人口は増えません。

2つ目の平均寿命についても、より長く生きることができれば、人口の増加要因となりますが、出生率とは異なり、年金を払う人が増えることでもあります。

3つ目の入国超過数は、日本に来た外国人や日本人が、日本を出国した数より多ければ、人口増加の要因となります。

なお、財政検証で置いた数値と直近の実績との比較は以下のとおりです。

令和6年度財政検証「人口の前提が変化した場合の影響」より

合計特殊出生率は見通しよりも暗いですが、入国超過数は大きく実績の方が上回っています。

(2)労働力の前提

労働力と年金財政の関係についても分かりやすいかと思います。多くの人が働くことで、保険料収入が増加します。そのため、年金財政的には、できるだけ多くの人が労働に参加してもらうことが望ましいと言えます。

労働力の前提は、就業者数と就業率で測ります。就業者数は働いている人の数で、就業率は15歳以上の人口に対する就業者数の割合です。

財政検証において、2022年の実績ベースでは6724万人の就業者(就業率60.9%)であり、2040年の見込みを中位(労働参加漸進シナリオ)では6375万人の就業者(就業率62.9%)としています。

人口減少は今後避けられないため、一定程度労働参加が進んだとしても、就業者数は下がってしまうことが見て取れます。

2019年と比べて、女性や高齢者の雇用が促進され、厚生年金の被保険者が2019年の4425万人から、2024年には4683万人に増えました。

また、支え手が増加して、被扶養者である第3号被保険者が減少したことも年金財政にはプラスに作用しています。

(3)経済力の前提

経済力は、全要素生産性の上昇率、実質賃金上昇率、実質経済成長率で見るようです。ここら辺から、大分混乱してきました。

全要素生産性(TFP)は、copilotに聞いてみたところ「総生産量の増加率から労働と資本の投入量の変化率を引いた差で計測され、技術上の進歩を表す数値とされています 。」と答えてきました。

もう少し分かりやすくと頼んだところ、労働と資本という通常の生産要では測れない技術革新などの要因を示す数値と返ってきました。

要は技術革新の進み具合だと理解し、2022年の全要素生産性の上昇率は0.7%であり、これが日本が好調だった1980年代は倍くらいありました。

実質賃金上昇率は、賃金の上昇率から物価上昇率を差し引いた値です。現在は26カ月連続のマイナスですが、春闘での高い賃金上昇率の影響もあって、今年中には、プラスに転じそうな気配があります。
9月にも実質賃金プラスへ(5月毎月勤労統計):それでも個人消費の回復は遠い(NRI研究員の時事解説) - Yahoo!ニュース

最後が実質経済成長率です。経済成長率は国内で生まれたモノやサービスの付加価値の合計であり、実質とは合計値から物価の影響を除いたものです。

IMFによると、日本の2024年の実質経済成長率は0.9%であり、財政検証でいうところの高成長実現ケースと過去30年投影ケースの間あたりで、悪い数値ではありません。
2024年4月「世界経済見通し」 (imf.org)

2 年金はいくらもらえるのか?

結局、この3つの前提を踏まえて、年金はいくらになりそうかということが気になります。

財政検証では、特定のケースなら平均で年に具体的にいくらもらえるという数値も出ていますが、実際はその時の物価に対してどれだけのものが買えるかで測るのが良いと言われています。

そこで、その時の現役世代の手取り月収に対して、年金で何%賄えるかを表す所得代替率を使用します。

2024年の財政検証の結果では、現在の所得代替率が61.2%なので、例えば現役世代の平均の手取り額が30万円だとしたら、年金の額は以下の通りとなります。
 30万円×61.2%(所得代替率)=18.36万円
現役世代の平均手取りが30万円の時、所得代替率が61.2%では、月額18.36万円の年金が手に入ることになります。

我々が年金をもらう65歳前後になった時、2060年はどのくらいの所得代替率になるのか、財政検証では、大きく4つのケースを当てはめています。

 ①実質経済成長率1.6%の高成長が実現できた場合は56.9%
 ②高成長とまでは行かずとも成長型経済に移行した場合は57.6%
 ③過去30年と同じくらいの成長だった場合は50.4%
 ④一人当たりの成長率が0%と今までよりも成長しない場合は50.1%

どうでしょうか。私は意外と悪くない数字だと思います。成長率が0%付近だとしても、現役世代の半分ほどは年金で賄えることになります。先ほどの例で言えば、手取り30万円であれば15万円年金が手に入ります。

2019年の財政検証の時は、過去30年と同じくらいの成長を想定した場合(ケースⅣⅤ)、所得代替率は46.5%ほどでした。4%ほど好転しています。これは、高齢者や女性の労働参加率が上がったためと言われています。

今後出生率がさらに下がった場合(1.13平均くらいで推移していった場合)3%ほど、所得代替率が下がると言われていますが、それでも、まだ2019年よりも良い数値が出ています。

3 将来の年金が上がるための条件は?

財政検証を見ていて、年金の額が上がるための要因は
 ・出生率が上がる(子どもが多く生まれる)
 ・外国人が多く日本に入って働いてくれる
 ・女性や高齢者など、多くの人が働いて厚生年金に加入する
 ・経済が成長して賃金が上がる
 ・運用利回りで好成績が出る など
いくつもの条件があります。
※理論上は短命になるというのも要因ですが、現実的ではないので、リストアップはされません。

年金の額は様々な条件に基づいて推計しており、よくメディア等でクローズアップされる出生率も要因の一つに過ぎないということです。

実際、以前よりも合計出生率の数は下がっていますが、入国超過数が想定い徐々に上回っていることから、カバーができている状況です。

じゃあ、老後は心配しなくてよいのかと言うとそうでもありません。

結局、普通に働いていたら年金だけでは現役世代の手取りの50%ほどしか賄うことはできず、経済が上手く回ったとしても60%には届かない状況です。年を取れば、支出は7割ほどになると言っても、年金の所得代替率が50%ほどでは、収入支出ともに30万円だとすると毎月6万円ほど赤字です。

個人としての備えはシンプルです。
①長く働く
→男性は特に仕事を辞めると老いるのが早くなるとも言います。健康のためにも長く働いて年金に頼らなくても生活できるようにします。

②iDeCoや積立NISAをフル活用する
→iDeCoやNISAを使って月に5万円積み立てて4%で35年間運用した場合、2300万円だった元本が約5000万円になります。5000万円あれば、月6万円の赤字を約70年間カバーすることができます。

③年金を繰下げしてできるだけ遅く受給する
→長く働いて年金に頼らない生活をして、年金を繰り下げ受給すると繰り下げた月×0.7%分年金が増えます。5年繰り下げれば、年金が1.42倍になり、その額を将来受給することができるので、所得代替率を手っ取り早く挙げることができます。

正直な感想を言えば、年金が上がるための一つ一つの条件も、政治がどうこうできることではなさそうです。上がったらラッキー程度の気持ちでいて、自分にできることは、長く働いて老後に備えることが一番かと思いました。

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