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紫陽花の葬送

「あの花は、去年の初夏に死んでしまったのよ。

心を連れ去ったまま、

永遠に届かない初夏のゆめに溶けてしまった。

枯れてまた新しい夢が開くのをあなたは気づかないふりをして、

足元の影はまた色濃くなる。

脆弱な心が夏の陽射しに焼け爛れないように
浅い呼吸をくりかえすたび。

忘れてしまうことに罪悪感を抱く生き物。
どこまでいっても誰かの為になんか生きれない。

水平線と夏が混ざったら、
また今年もあなたは同じゆめを選んで眠るでしょう。

夏はあたまが悪くなる。

何処へだって行けたのに、何処にも行きたくないふりをして。

空っぽなふりをして。

気づいたら夏は死んだんだ。
紫陽花も死んだ、蝉の声も途絶えた。

知らぬ間に気配をひとつずつ解いて、
一滴の寂しさを含ませた蒸し暑さが残るばかり。

空が青ければ青いほど、
夕刻が美しければその分だけ。

夏が列をなして死んでゆく。

なにもかも扉の向こうへ行ってしまえば、
嘘みたいな自分の空っぽの体だけが残る。

その手が持て余すのは行ったきり、

戻ってはこない夏の片道切符」

#夏の片道切符 #自由詩 #詩 #言葉

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